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進学クラス用の校舎である東棟の裏庭で、無造作に捨てられた椅子を移動させる。
(まぁ、僻みくらい多少あるよな。)
人生初めてとも言える嫌がらせにも、本人は比較的冷静だった。
それからしばらく、何事もなく過ごしていると、今度は、辰のロッカーの鍵が壊された。ロッカーは学校の備品なので、流石に、担任へ相談しに行く。
(弁償代払うとか、あんのかな……?)
翌朝。お金に関する心配を抱え、辰が自分の席を訪れると、机に『死ね』と、油性マジックで大きく書かれていた。
この頃からだ。
事態は急速に、悪化の一途を辿り始めた。
上履きを隠され、お弁当がゴミ箱に捨てられ、教科書がなくなった。辰の身の回りに、いじめと思われることが、日増しに日増しに増えていく。
(進学クラスは普段、東棟で授業を受けてて、東棟へは、他のクラスの人間は出入りすることが出来ないし。他クラスと交流することが出来るのは、学校全体のイベントや委員会、部活だけだ。きっと、閉鎖された空間にずっと居るからいけないんだ。)
そう考えた辰は、打開策として、夏休み直前、茶道部に入ることにした。
(環境が変わって、俺の雰囲気も変われば、いじめなんか、きっとなくなる。)
祈るような気持ちで、入部届を提出した。
いざ入ってみると、一年生部員は、標準クラスの男子しかいない。何より、茶道のような静かで落ち着いた雰囲気は、辰の好みだったので、この選択は正解だった。
(【いじめ】そんなものは、時間が解決してくれる。学校が長期休暇に入れば、落ち着くはずだ。)
前向きに、現実と向き合う。十五歳の青年は、誰に相談するでもなく、ひとりで考え、行動した。
そんな中。最も辰を困らせたのは、犯人の特定だった。
(う~~ん。相手がわかんないと止めてもらいようがないんだよなぁ。)
この頃になると。朝、登校しても、誰ひとり話し掛けてはくれなくなった。
けれど、辰自身。
(それはそれで、自習に集中出来て、むしろ良いんだよな……。)
なんて。そんな調子でいるもんだから、事態はなおさら膠着状態を極めていく。
(せめてまだ、学校で直接、悪口を言われてれば。)
そう思ってしまうことがあるくらい、正体不明の犯人に、辰は成す術を失っていた。
ただ、得体の知れない何者かによって、必要なものがなくなったり、不快と思うことを、数ヶ月間され続ける。誰に、八つ当たりすることも出来ない。犯人が解らない。二学期に入って、辰の中の黒い塊は、大きくなるばかりだった。
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