四礼目 雨よ上がれ

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 それでも辰は、勉強と部活のために学校へと通い続けた。  けれど十二月に入り、二学期の期末成績が張り出されたその日。これまでで一番耐え難いことが起こった。  教科書やノートが入った鞄が、丸ごとなくなったのだ。物を隠された回数は数知れず、辰も流石に慣れてきていたので、よく隠された東棟の裏庭へと行ってみる。 (どうせまた此処だろ?)  足を踏み入れて数秒後。辰は自分の膝が、衝撃で、ガクガクと震えるのを感じた。  茂み脇の枯れ葉の山と共に、辰の鞄が、燃えていた。  四月からの約八か月分。必死に書き留めた努力の結晶が、人知れず火花を散らす。パチパチと小さく紙の燃える音がするだけで、辺りには、誰の姿も見当たらない。 (駄目だ!これだけは!これだけは!!)  制服の上着を脱ぎ、辰は懸命に消火した。  掛けた時間の分だけ。誰に何をされようと、ふとした時、自分のノートを見ることで、 (大丈夫だ。努力だけは、俺を裏切らない。)  そう言い聞かせ、辰は自分自身を奮い立たせていたからだ。  それなのに。三十分と経たないうちに、辰の結晶は、真っ黒な燃え(かす)へと変わっていった。  何百万と書かれた文字も、灰の形で一塊に。  辰にとっての心の支えは、一瞬にして失われた。 (俺の……努力が。)  愕然とする青年の心に、駆け付けた、ひとりの大人がとどめを刺した。  担任の野口だった。
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