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「見なかったことにするんだ」
(今コイツ、なんて言った……?)
辰は、自分の耳を疑った。
「此処で見たことは忘れるんだ。学校もお前も、その方が、都合が良いからな」
ほんの少しも悪びれない。大人の態度が、青年の心を引き裂いた。
次の日から、辰は学校へ行けなくなった。
行かなかったのではなく、行けなかったのだ。
自分でも不思議なくらい、急に身体が言うことを聞かなくなった。中三の夏休みからずっと続けていた毎朝の自習も、やる気が起きず、出来なくなった。食事も、朝が起きられなくなった分、不規則になる。酷い日は、一日何も食べないで、ただボーっと、窓の外を眺め、過ごす日もあった。両親と会話することすら、辰はまともに出来なくなった。
外出もろくにせず、母親が気を遣って部屋の前に置いてくれた食事を取る時と、トイレに行く時以外、自分の部屋を出ない日も、次第に増えていった。
そんな状態になっても、ただひとり、辰の家へと通い続けてくれた友人が居た。
【清水 和仁】
彼こそが。辰が本当に、唯一、信じることが出来た人だった。
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