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辰の心が過去から今へ続く苦い思い出を辿っている頃、無事、和仁と宗也の仲直りが済んだことを受けて、四人は、放課後、辰のもとを訪れた。予想していた通り、玄関に上がることすら出来なかった。
そんな四人に、さらなる試練が、訪れる。その名は、【中間テスト】。
「うわぁあぁ~!!」
「静かに勉強しろ、宗也。」
「そうだよ。宗也は、前回も赤点のオンパレードだったんだから。」
「……宗ちゃんのテストは、いつも凄い。」
涼、和仁、秋に、順に指摘を受けた宗也は、蹲り、やがて静かになった。三人は、やっと集中して勉強出来ると、各々集中して勉強していた。
兄弟がなく、父は東京と静岡を行ったり来たりしている関係で、いつも家に帰っても母親しかいない涼の家は、今日、母親が舞台観劇のため家を留守にしている。そのため、涼はひとりでテスト勉強をするつもりで居た。そこで、放課後の自習先を探していた三人と遭遇したので、家を提供することにしたのだ。
涼は、英語のワークのキリが良かったので、おやつと飲み物の補充でもしようかと立ち上がった時、宗也の首がほんの少し上下に揺れていることに気が付いた。間違いない。あれは、……寝ている。
そっとふたりの肩を叩き、視線でそのことを訴えると、次の瞬間、和仁のワークが凶器へと変わった。
『パコーン!!』
「イッツ!!」
「もうすぐ六時だよ。」
和仁の眼鏡の下が笑っているのを見て、コイツはドSだなと、涼は思った。
日が暮れ始めている。明日からの連休は、雨が続く予報だ。もうすぐ、梅雨になる。中間テストが終わったら、遠弥の墓参りに行こう。涼は、背後から聞こえる友人達の声を背に誓った。
「どうして、そうなるの?問題文ちゃんと読んでる?宗也。」
「えっ?だってココに代入するんだろ?」
「……宗ちゃんは、現代文もいつも赤点ギリギリだもんね。」
遠弥以外の人間とはほとんど友人関係を築こうとしていなかった涼が、一年後には、こんなにも賑やかな集団の中に居る。涼自身、そのことが本当に感慨深いと感じていた。
宗也のワークを指さして、眉間に皺を寄せる和仁へと告げる。
「俺が面倒みるよ。」
「涼、その言い方クソ腹立つ。大体お前、数学出来んのかよ?」
「まぁ、お前よりは。な?」
「涼。舐めてかからないほうがいいよ。宗也、一年のテスト、五回とも補習だったんだ。」
「お前……。それは流石に凄すぎるだろ。」
「アッ、アレは、た、偶々で!!」
取り乱す宗也に、冗談ではないのだと、涼は確信する。
「人は、五回もやったことを、偶々とは言わん。」
「そうだよ、宗也。」
「っ、秋!助けて!!涼と和仁がオレのこといじめてくる!」
ふたりに挟まれた宗也は、黙々と現代文を解いていた秋の背中に隠れた。小柄な宗也は、恰幅の良い秋の影に、すっぽりと隠れることが出来てしまう。
「宗ちゃん。現文やったら、化学一緒にやろう。」
と、秋は秋で、相変わらずのマイペースを貫き通している。直接聞いたことはないが、涼は秋の血液型が少し気になった。やはり、B型なのだろうか。
こうして、迎えた中間テストの結果は、無事、赤点を回避することが出来た。……残念ながら、ただひとりを除いては。
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