一礼目 東京へ

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 学校へ着くと、あらかじめ直接向かうよう言われていた職員室へと足を運んだ。校舎はかなり広い。公立高校だし、都会だから家賃でも気にして縦に高いビルみたいな学校かと予期していたけれど、横に広く、でも前の高校より確実に頑丈そうな校舎に、思いのほか以前と差がないことに涼は安堵した。  まぁ、この程度の差で済んだのは、前の学校が、田舎ではあるが私立ということもあり、施設が充実していたおかげとも言えるだろう。涼が職員室へ入ると、広い職員室には、たった三人しか教師は居なかった。  一番奥の、他よりも横長で、かなり使い古された灰色の机の奥に座っている小柄で、やや色黒なおじさんと、その二つ手前の席で、ファイルやらプリントやらを手に、慌てて仕度している若い女性の先生が居た。そして、廊下側手前に座り、またしてもファイルやプリントを手にしているが、女性の先生とは打って変わって、まるで、そこだけ時が止まっているのではと、勘違いしそうになるくらい落ち着いている綺麗なグレー頭に、細い銀縁眼鏡をかけた御年配の先生が居た。  御年配の先生は、涼の顔を確かめるように、ゆっくりと、見定めた。そうして、着実に立ち上がった御年配の先生が、どうやら涼の新たな担任のようだ。簡単な挨拶と、三枚プリントを受け取り、その足で先生と一緒に教室へと向かう。  登校時間終了の鐘が鳴り、鐘と共に廊下をかけていく生徒たちに向けて、「走っちゃいかんよ。」と、優しく声をかける先生を見て、母校と変わらぬ年配の先生のぬくもりに、ほっと胸を撫でおろす。  (校舎も、先生も、あまり変わらないな。)  けれど、一番の難所は、間違いなく、都会育ちのクラスメイト達だろう。  そう意気込んではみたものの、それもまた、無駄な気負いだった。田舎者だとからかわれることはおろか、クラスの人間は皆、本当に、普通だった。涼が想定していた程度には、少し遅れて来た春の転校生に興味を持ってくれたし、かと言って、地方出身だからと特段、質問攻めになることもなかった。  強いて言うなら、転校時期が、四月の初めではなかったことを、親の仕事によるものだと解釈したのか、父の仕事について質問をしてきたクラスメイトがいたので、父親の実家が茶畑農園だと答えたら、妙に感心された。それ以外、転校初日は、全く何事も起こらなかった。
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