四礼目 雨よ上がれ

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 その日の学校は、人もまばらだった。というのも、再試験の日は、他の生徒は休みなので、涼、和仁、秋の三人は、部室で宗也の試験が終わるのを待った。試験終了予定時刻が近づく。  シンとした空間に、『シャシャシャ』と、規則正しい御茶を点てる音が響く。三人の居る御茶室の外、部室の扉が、ゆっくりと開く音がした。その途端、御茶を点てていた涼の手が止まる。ほんの少し鋭くなった涼の目が、外の音を聞いた。 「……失礼する。」  緊張感を保ったまま言い切られた言葉と共に、その人物が、(にじ)り口から御茶室へと入室した。  艶やかな濃い紫色の着物に、淡い紫色の袴姿の辰だった。  (つくばい)で手を清め、躙り口から身体を入れるまでのその仕草は、鮮やか且つしなやか。床の間にかけられた【雲外蒼天(うんがいそうてん)】と書かれた掛け軸の前で深く一呼吸するその横顔は、すっきりとしていて、話しかけるのが野暮と、三人に思わせるほどだった。  蹲の水音が、かすかに聴こえる。辰が、床の間の拝見を終え、秋の隣に座ると、涼は点前を再開させた。  一服点て終えると、涼は点てた御茶を辰のもとへと運んだ。御茶菓子を食べ終えると、辰はその御茶を飲んだ。  秋は、ふと疑問に思った。今、辰が来るまで、御客は、和仁と自分のふたりだけ。御茶菓子も、御茶も二つずつあればいい。けれど、辰は、掛け軸を拝見した後、流れるように自分の席に着いた。そして、漆塗りの皿の上に残された三つ目の御茶菓子を食べたのだ。それに、涼は、この時三杯目の御茶を立てていた。 (あらかじめ用意されていた?)  思わず、和仁の方を見ると、和仁は、唇を噛みしめていた。その表情は、ほんの少し怒っているような、けれど、内心嬉しいのを隠そうとしているのが丸わかりの表情だった。
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