七礼目 文化祭

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 男は、御茶席が終わると、部屋を出た途端、部室の扉の前に、仁王立ちして構えた。  やっと、話が出来ると、秋はもう何度目か解らない深呼吸をして、男へと向き直った。 「おじさんっ!」  自分でも、想定していたよりも大きな声が出た秋は、口元を恥ずかしそうにつぐんだ。 「…………。」  男は眉をピクリと動かすだけで、それ以外は、反応を示さない。  事態を何も把握していない宗也は、扉の前に立ちはだかる男と、男に必死に話しかける秋の顔を繰り返し見比べる。 「オイ、オッサン。そこ、邪魔だぞ。今日の客の入りに、オレ達の未来がかかってるんだ。どいてくれ。」  拭いきれない不服さと、突然現れた男に口をとがらせる。  宗也の言葉に、男の切れ長な目が、目に映る景色全てを嘲笑うかのように、さらに細くなった瞬間、「フッ、可哀想に。」と、男が、鼻で笑い呟く声が、宗也と秋の耳へと届いた。 「ふっざけんな!!」   堪えようのない苛立ちが、男の嘲笑で溢れ出す。 「お前、なんで笑ってんだよ!!」 「おじさんは、葉ちゃんのこと、どう思ってるんですか!もしかして、今日!涼ちゃん!取り返しに来たんですか!!」  秋の言葉に、宗也の怒りは、さらに激しくなる。 「涼は、やらねぇからな!!」  ふたりが男を責め立てる声に、午後の部終了間際に並ぶ御客さんの視線が集まる。外での喧騒に違和感を感じた涼が、慌てて部室の扉を開ける。 「どうしたんだ。ふたりとも!」  かつての師匠に食ってかかろうとするふたりの姿に、慌てて止めに入る。 「コイツが、オレ達のことを鼻で笑ったんだ!!それに、お前を取り返しに来たって!」 「涼ちゃんは危険だから、下がってて!!おじさんが涼ちゃんを取り返しに来たんだ!」  ふたりの声は、次第に大きくなる。目の前に広がる光景に、男の口元が徐々に吊り上がっていることに気が付いた涼は、一瞬、姿を消したと思いきや、御茶室に用意されていたこしあんがたっぷり詰まった最中をふたつ手に取り、一方を宗也へ、もう一方を秋の口へと放り込んだ。 「モフッ、モッ!」 「んっ、ん。」  口をアムアムさせるふたりの手を取り、涼は部室の中へとふたりを引き込んだ。 「あの人は、ああやって、わざと人の心を刺激してるんだ。自分の欲しいものを、手に入れるために。だから、耐えてくれ。宗也!秋!」  そう口にする涼の手は、ひんやりと冷たくなり、震えていた。
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