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二礼目 点てる意味
真行高校茶道部は、前年度の新入部員に女子が居なかった。居たのは男子が四人だけ。そして、その前の年は、新入部員が一人も入らなかった。つまり、昨年度は、三年生部員と一年生の男子四人しか、部員が居なかった。
しかも、四人のうちのひとりは、秋から冬へと季節が変わり始めた頃から、だんだんと部活に来る機会が減っていた。また、部員の大半が三年ということもあって、年を越す頃には、実質的に活動しているのは、一年生の男子部員三人だけとなっていた。
「嗚呼…、新入部員、一気に十人くらい入らねぇかなぁ~。」
「それはちょっと…、定員オーバーでしょ。」
「いいじゃん、ちょっと狭いくらいの方がさぁ~。絶対、その方が楽しいって!」
この議論は、ここ二、三か月。練習後に、宗也と和仁の間で幾度となく、繰り返されていた。
「…………。」
その横で黙々と茶道具の後片付けをする秋。
これが、真行高校茶道部の三月までの日常だった。
けれど、この翌日、顧問の太刀内先生から突然言い渡された悲報に、宗也は大慌てで騒ぎ出し、和仁は何かを思案し、秋はいつもよりほんの少しだけ目元を鋭くした。
『四月一杯で、部員が五人に満たなければ、廃部。』
具体的かつ極めて短い期限が付いたその条件を、覆すだけの力が、この時、彼らにはなかった。
【文化部で、大会出場経歴も特にない。毎日、御菓子と御茶を頂くだけの優雅な部活。】
三人の心構えとは大きく違っていても、傍から見た彼らの評価が、それ以上でもそれ以下でもないことは、明白だった。
こうして新しい年度を迎え、三人は二年生になったが、新入生獲得は残念ながら、達成されそうになかった。
部活動見学の際、入部希望者は、数人居たのだが、女子部員が居ないことを告げると、皆入部することを怖がって、敬遠されてしまう。そう、入部希望に来た子達は、全員、女子生徒だったのだ。
【狭い空間に、男子三人に、女子は自分一人だけ】というシチュエーションが、彼女達の恐怖心を煽っていたのは明らかだったので、部長の和仁は、入部希望の女子生徒が複数人いることを説明したのだが、皆、勧誘のための作り話だと思ったのか、廃部寸前の噂と相俟って、結局、誰一人、首を縦には振らなかった。
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