七礼目 文化祭

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 一年前の秋。青高では、次から次へと部員が辞めていった。  初心者は要らない。あの日、そう口にした天道さんは、それから、もっと、厳しく部員へ稽古を付けた。初心者だけじゃない。茶道の鍛錬を少しでも怠ったものは勿論、きちんと鍛錬に励んでいても、天道さんの求める茶道のレベルに到達していない部員を、天道さんは、徹底的に部から追い出すようになった。  気が付くと、部員は涼が入部した当初の三分の一になっていた。涼が、天道さんに恐怖心を抱くようになった理由は、それだけではなかった。  高校一年のある日。涼は、体調を崩して部活を三日間休んだことがあった。母親から学校へは連絡が行っていたものの、天道さんとは、直接連絡を取っていたこともあり、学校側から、涼の欠席連絡は行かなかった。  また、度重なる天道さんによる部員の強制退部のせいで、涼の欠席をわざわざ天道さんへと知らせる人間は誰もいなかった。こうした背景と初日に高熱が出たこともあって、天道さんへの急病の知らせが二日目の午前になってしまったのだ。  すると、涼の元へ、丸一日で、百通近く天道さんから、メッセージが届いた。 『君まで私を裏切るの?』 『君の才能は、他の子とは違う。』 『君が諦めようとも、私は君を諦めないよ。』 『君は、私からは逃げられないんだ。』 『君の茶道は、私のモノだよ。』 『解った。今日一日だけ。他の余計な人間を切り捨てるための時間をあげよう。』 『君は必ず、私のもとへ戻ってくるんだ。』  狂気的だった。  思えば、自分が理想とする茶道のためなら、どんなことでも出来る。天道さんは、そういう人だ。現に、教え子を何人も強制的に退部させている。そして、極めつけは、涼が学校へ復帰して、二週間後に行われた結婚報告だった。  天道さんは、理事長の一人娘と結婚した。集会で、理事長の隣に居るのを何度か見かけたことがあるが、やや血色が悪いことを除けば、どちらかと言うと、イケメンの部類に入る天道さんのフィアンセとしては、その女性はどうにも釣り合わない外見をしていた。
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