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二日目、午後の部終了まで、あと三十分。涼は考えた。
(このタイミングでトラブルを起こせば、間違いなく、俺達は負けるだろう。もし、俺の説得に、ふたりが素直に応じてくれたなら、もう二組は気合で御茶席を設けられるかもしれない。)
震える手から、必死で目線を上げようと、一度、深く、深呼吸する。
すると、突然、手の甲に、自分以外の体温を感じた。ずっしりと重なった重みと共に。
驚きと恐怖を跳ねのけ、ゆっくりと開いた瞼の先には、涼の手の上に、四本の手が重なっている。
『涼が心を開けば、きっと、皆も心を開いてくれるよ!』
『どんなことも、願えば叶うよ!』
心の中で、遠弥の言葉がこだまする。
(宗也や秋が、手を重ねてくれているというのに、不謹慎だな。)
涼がそう思ったのも、束の間だった。
「ン。お前の気持ちは、解った。」
「ンクッ。……涼ちゃん、僕も、かっとなっちゃって、ごめんね。」
無理やり口に放り込まれた最中のカスを、口の周りに付着させたまま、そんなことには目もくれず、真っ直ぐに自分の目を射抜くふたりの瞳に、あと二回、なんとしてでも御茶席を回そうと、涼は、着物の襟を正した。
「はぁー…………。」
深く息を吐く。
(天道さんの狙いは、おそらく、俺達の仲違いだ。失礼な客を前に何らかのトラブルが起これば、集客数一位は厳しくなる。そうなれば、当然、俺をこの部から引き抜きやすくなる。一体、どんな手を使って、俺がこの学校に転校したことを突き止めたのかは知らないが、たとえ、かつての師でも、俺は、いや、俺達は、俺達の茶道部を守り抜いてみせる。天道さん……。貴方が失ったモノを、俺は、必ず、失いはしません。見ていてください。残り三十分。本気の俺を、貴方に見せてあげます。)
ラスト三十分。この日、茶道体験に足を運んだ人間は皆、口を揃えてこう言った。
『宮瀬涼は、天才だ。』と。
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