七礼目 文化祭

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「アンタ、太刀内先生にまで、そんな失礼な口聞いて、何しに来たんだよ!」  宗也の激しい怒りが、静かな廊下に響く。  宗也が来た方向を振り返ると、他の部員も全員宗也のあとを追って、小走りでこの場へとやって来ていた。 「お前らどこに……」 『居たんだよ。』そう続くはずだった涼の言葉は、続く皆の言葉によって掻き消された。 「涼は、俺達の大切な仲間です。」 「悪いけど、おっさんの我が儘で、大事な仲間を連れて行かれるのは、非常に困る。」 「これ以上、大切な人が傷付けられるのは、ごめんです。」  和仁も、辰も、秋も、真剣な眼差しで、天道さんに対峙する。秋はともかく、和仁や辰が、ここまで親身になってくれるのは何故だろうか。そんな疑問が顔に出ていたのか、ふと、涼の左隣へと、ゆっくりと歩みを進めた太刀内先生に囁かれる。 「本当は、もう解っておるんじゃろ?今、君が目にしているあれが、わしが天道くんに教えてあげられなかったモノじゃと。」  茶道は、準備も、御茶を点てている時も、ひとりだ。孤独で、御客さんからの視線は、常に緊張が付き纏う。勝ち負けがない分、嗜んでいる人口も、決して、多くはない。  それでも、自分の御茶を飲んでくれる相手に、最高のおもてなしを。初心者も熟練者も、御茶を愛する人なら分け隔てなく、想いを込める。それがほんの一片でも伝われば、それでいい。抹茶の香りの中に、大きな世界が広がる。  四人に迫られた天道さんは、 「私は諦めないよ。涼。」  ただ、その一言を言い残して、去って行った。  あの人の最も恐ろしいところは、四人に迫られてから立ち去るまで、一ミリもその表情が、揺るがなかったことだ。眉間の位置も、眉の位置も、表情筋の位置ですらも。
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