七礼目 文化祭

18/19
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
 過ぎ去ったばかりの恐怖と、結局、文化祭二日目の点前を独り占めしてしまった罪悪感が涼の胸へと押し寄せる。 (本当に、これで良かったのか……?)  天道さんの背中をじっと見つめていた四人が振り返る。一気に、四人分の視線と身体を正面に向けられたことで、ほんの一瞬、涼は怯んだ。 「みんな……ごめん!」  居ても立っても居られなくなって、涼は、深く頭を下げた。天道さんのことについて謝っているのか、それとも、点前を独り占めしたことについてなのか、自分でももう、よく解らなくなってきている。確かなのは、半年ぶりに見たかつての師匠に自分が酷く怯えているということだった。怖い。あの人は、欲しいものを手に入れるためなら、家族だって捨てられる。結局、今日だって、秋の問いには全く口を開こうともしなかった。聞こえているのか疑いたくなるほどだった。そんな人が、自分を、支配……しようとしている。みんなを、巻き込みたくない。そう強く思った瞬間、涼の瞳からは、汗以外の何かが流れ出た。 「っ……。」  顔を上げることの出来ない涼を、そっと四人が取り囲む。前後左右を覆うように立たれているのに、不思議と威圧感は、そこにはなかった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!