二礼目 点てる意味

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 そんな折、新学期開始から三週間が過ぎようとしていた時、親の引っ越しの都合で転校が遅れていたクラスメイトが一人転校してくるという噂がひそやかに話題となっていた。  そして和仁は、教室へと入ってきた彼の姿勢の良さに驚いた。 (あれは明らかに、何か和事(わごと)を習っている人間の姿勢の良さだ。)  さらに、和仁は、彼が漏らした言葉を聞いて、転校生の涼が、茶道経験者だと確信する。 (あの空間を……。一年間、守り続けたあの場所を、俺は失いたくない。)  普段決して、熱しやすい性格ではない自分が、やっと見つけた情熱を注げるものを、和仁は簡単に手放す気はなかった。  最初は、宗也に誘われて始めただけの部活だった。それでも、自宅にはない畳の香りや御茶を点てることだけに集中するあの空間は、通っていくうちに、他では体験出来ないものなのだと、気が付いた。花が咲く季節も、焼き物の名前も、茶道部に入ってから意識するようになった。  関わらなければ、きっと、知らないまま通り過ぎていた。そのことを考えると、和仁はゾッとした。  和仁達が稽古に励んでいたように、高校一年生の涼は、涼で、己の信じる茶道の道を突き進んでいた。
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