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「いやー!すごいよスプリング博士、あの時は疑って済まなかった」
「いえいえ、私を信じて下さりこちらこそありがとうございました」
国には毎日のように雨が降り続け、アメフラシは数をさらに増やした。今スプリング博士は、会合でカーソン大臣と国のレストランに同席している。レストランの入口にはアメフラシの置物が三つほど置かれていた。
「しかし、アメフラシ政策がここまで国の経済を回復してくれるとは思いませんでした、スプリング博士の先見の明にはいつも驚かされますよ」
「いやいや、今回は科学の力は頼らなかったので完全な博打でしたよ。」
とはいいつつもスプリング博士は最初から策を考えていた、恐らく博打ではなくデータや文献と日夜対面し最適解を編み出していたのだろう。カーソン大臣はそう思いながらも話を続けた。
「しかしここにも活気が戻りましたね、来る途中にあったアメフラシの銅像を見ると私達のしたことは間違いではなかったと再び誇らしい気持ちになれますよ!」
「ああいうモニュメントはアメフラシへの敬意はもちろんのこと、私達への感謝とも解釈できますしね。しかもここだけでなくあちらこちらに立っているそうで」
「すっかりアメフラシ一色ですね、博士が仰っていた通り神はどの生物にも宿っているんですね」
「ただこの幸せもゆっくりとは噛み締めませんよ、次は排気ガスの問題にも取り掛からねばなりませんので」
「そうですね…また頼りにしてますよ!スプリング博士」
「任せてください」
二人は雨降る外を眺めながらゆったりとした時間を過ごした。
──それから二日後、国の話題は奇妙な事件で持ちきりとなっていた。
「各地の銅像が溶けてる…?」
驚いた顔でカーソン大臣が呟く。
雨も収まることを知らない、そんな日の朝、ある町の住人がアメフラシの銅像が不自然に削られていることに気づいた。
「なんて悪質なイタズラなんだ!」
町の人々は怒り犯人探しを行った。しかしそんな犯人探しも銅像の削れが他の場所の銅像にも見つかると、次第に人々はそれを奇妙な現象として人間の行動じゃないのではと思うようになった。
「きっと私達がアメフラシを商業的に搾取しすぎたからアメフラシの神様が怒っているのだ、怒りを鎮めるために祈ろう」
一部の国民はそういい祈りを捧げた。しかし彼らの祈りも虚しく、銅像は日をまたぐごとに削れていった。さらに恐ろしいことに国民の一部が集団で体調の悪化を訴えたのだ。原因不明のこれらの減少に誰もが狼狽えるばかり。
またもや国は混乱し始めた。
「スプリング博士!!また国の状況が悪くなっています!新たな策を考えてください!」
国民はスプリング博士に詰め寄りそうねだった。
「皆様の気持ちは分かります、しかし次の制作を作るより前に今起こっている怪奇現象を解明しなければいけません、まずはそれを進めさせてください」
「どうしたらアメフラシの怒りが収まるんだ…」
スプリング博士の顔には汗が浮かんでいる。
「スプリング博士!」
「…カーソン大臣?どうされました?」
カーソン大臣が物凄い勢いでこちらに来る。こちらなはスプリング博士の比ではないほどの汗が浮かんでいる。
「アメフラシが…アメフラシが大量に死んでいるのが発見されました。」
「は?」
「いや…先程道の真ん中で何匹ものアメフラシが死亡してまして…しかし轢かれた形跡もなく綺麗に形を留めているのです。まるでなにかの病にかかったかのように…」
「…もしかして」
スプリング博士にひとつの答えが浮かぶ。
「なにか分かったのですか?!さすが博士!それでこの問題にはどう対処するのですか?!」
「いや…多分これ以上アメフラシを増やしても、アメフラシを祀っても意味は無いでしょう…」
「…?それは一体どういうことでしょうか」
「恵みの雨は、滅びの雨だったということ…」
「博士どういうことですか?」
博士はこれ以上の会話を拒み、沈黙を貫いた。集まった国民によ不穏な雰囲気が流れる。
「博士…なにか喋ってください。また私たちに知恵をください…博士?」
人々が集まる中、痛いほど冷たい雨が構わず降りしきっていた。
その中の一滴がそばに居たアメフラシのアタマに当たりそのまま地面に滴り落ちた。
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