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「…は?」「ざわざわ…」
呆気にとられるもの、思わず戸惑いが口に出るもの、議会はさっきとはまた違う神妙なムードに包まれた。
「スプリング博士、少し待ってください。なんですかその気持ち悪い生物は。アメフラシって…名前だけじゃないんですか。今は真面目な討論をですね…」
「何を言ってるんだカーソン大臣、私は至って真面目ですよ。懐疑的な目で私を睨みつける前にまずは私の話を聞いてくれ」
スプリング博士は至って真面目な様子で語りかける…手にアメフラシを持ちながら
「まずあなたがたは人間以外の生物を下に見すぎている、自分たちが生物の頂点だと信じて止まない。しかしその揺るぎない自信が誤った結果に繋がることもある、例えばここのように、…とはいえ人間の知能は生物の中でも特に高いのは周知の事実、あなたがたが過信するのも無理はないでしょう。」
「そうだその通りだ、そもそも人間が解決出来ない問題を他の生物が解決出来るわけがないでしょう、そしていつまでその気持ち悪い物を持ってるんですか?!」
カーソン大臣は苛立ちを抑えきれず叫ぶ、一方スプリング博士は話を続ける。
「昔昔ある国にはこんな伝説がありました。生物、植物、物質…それらには全て神様が宿っていると。その国の民はそれを信じあらゆるものに祈りを捧げた…例えば犬に、雑草に、更にはトイレに、信じられないでしょう。でも彼らは信仰を止めなかった。その結果その国には新たな文化が芽生え、新たな景色に包まれ、新たな時代を何回も迎えた。そしてその国は今も進化を続けているそうです。これは御伽噺では実際大昔にあった物語。これが何を意味するかお分かりですか?」
「…生物に敬意を捧げることが問題の解決に繋がる…?」
「半分正解です。」
右手でアメフラシを撫でながらまた話を続ける。
「生物に敬意を持つことは大切です。ただし今回敬意を払う生物はこのアメフラシだけでいい、他はまた今度存分に愛でるとしましょう。古きを温ね新しきを知る、私のモットーのひとつです」
「でもどうやって!…この小さな生物でどうやって問題に取り掛かるのですか」
会議はカーソン大臣とスプリング博士の二人のものとなっていた。他の参加者は息を潜め聞いている。
「まず、これを国に大量に流します。彼らはその名の通り雨を降らせる力を持つ。名は体をあらわすという言葉がある通り、彼らの数が多ければ多いほどその効果は存分に期待できるでしょう。見た目こそは少々グロテスクなのですが、おぞましい光景にはここの国民ならもう慣れているでしょう」
「なかなかの皮肉ですね…しかしこんな非科学的な考案を貴方がするとは思いませんでした。誰かに命令でもされているのですか?」
「私は他人の命令を聞くことが苦手でね…今の国に科学の力で立ち向かうのは無理があります。正直私の手では負えないとすら感じている。しかし貴方がたは私を会議に招集した、この案に乗るか乗らないかはそちらの勝手ですが…」
正直カーソン大臣はこの案に乗り気でいることは出来なかった。本当は今すぐにでも別の案を採用したい、しかし彼はこの国トップの頭脳の持ち主。これ以前にも彼の研究には何度も助けられてきた。なにより他の案がない以上これを通すしか打つ手は無かった。
「…分かりました、すぐに国民に知らせます。しかし私たちはこれを信じてはいません。効果が見込めない場合はすぐにそのアメフラシを回収させてもらいます。」
「わかりました」
スプリング博士は雲ひとつ立ち込めていないような笑顔で頭を下げた。
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