千災一遇!アメフラシ教

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ガタッゴトッガタッ...ギー...ギー...ガガガガガガガガガガガガ...ボシュッ... この国で規則正しい時間に目を覚ます方法はふたつあるという。 一つは、時計屋で精密に作られた目覚まし時計を買いお目当ての時間にセットすること。 もう一つは起きる時間を七時に固定し辺り一面に広がる工場からの騒音を目覚まし時計代わりにすることだ。 当初この国は周りには草木しかないような資源も乏しい小国家だった。住人も少なく若手もほとんどおらずの限界状態で隣国からの少ない支援でなんとかやりくりしている、そんないつ滅びてもおかしくない国がかつてのこの国の評価だった。 しかしそんな国にも転機が訪れた、隣国で産業革命が起こり、機械や物資がこの国にも流れ「ここを工場地帯にして経済を発展させよう」と国全体の大工事が協力体制のもと行われた。一切の舗装もない地面にはコンクリートで覆われ、煩わしいほどの数の森はほとんどが伐採され工場地帯として利用された。「革命に愛された国」という渾名はこの国を一言で表しているとして、教科書などでも取り上げられた。 更に物凄いことに人口問題もかなり改善された。工場が建てられたことで労働者が各地からこの国に移住するようになり、妻子持ちもその中に一定数いたことで少子化問題も一旦解決された。工場はほぼ一日中動き続けて国の再興を叫ぶ煙があちらこちらで空へ放たれた。 ただ活気が満ち溢れていた国も数年経つと色褪せた光景、そして発展させすぎて蒸気の悲鳴を上げている環境に人々が気づき始めた。 少し前の革命に対する熱はどこへやら、国民は工場地帯、及びその労働者を英雄から天敵として扱い始めた。ただいくら罵声が浴びようが工場を廃止することも出来ず、仮に廃止した所でまた元の貧しい国に戻ることは分かりきっている事だった。 ──国内某所 「この国は再び衰退をたどろうとしている、早急に手を打たなければならないのは分かりきっている事…」 開口一番、口にしたのは国の権力者のカーソン大臣。 「民衆の不満は最高潮に達している。最近は革命は国を崩壊させるための相手国の策と捉える陰謀論が流行ってるみたいだ。このままでは他の国とも大きな溝が生じてしまう…」 「…でも無理もないですよ、前までは貧しい村の癒しであった綺麗な水の流れる川も今は汚染に継ぐ汚染で入ることすらできない。食糧も補え、人口も増えたのは事実ですが住民が増えたことで新たなトラブルも多発しています…国民も移住者ももはや安らぎの場所を知らない状態です…」 会議に参加していた議員がそう説明する。周りでは「そうだそうだ」と彼に同意するどよめきが起こった。 口は踊る、されど会議は進まず。誰もが対策を放棄したかのように国を憂いている時間が暫く続いたが、ここで一人が口を開いた。 「いや、ここで国を哀れんでいても仕方がない、まずは一番この国でまずいことを考えよう、今すぐ全てを解決することは無理なのは分かっているだろう。だけど一つ一つなら国政がこれ以上破綻するリスクも少ないだろう、そしてみんなこの国の一番の問題点をもう分かっているはずだ。」 彼の名前はスプリング博士、国一番の知能を持つ優秀な研究者だ。今日も彼の知恵を頼るためこうして議会に呼ばれている。 「…雨ですよね」 「…そうだ」 この国はもともと雨がなかなか降らない気候の場所に位置している、しかし極端な工業化により環境も段々と狂い始めその降水量は異常な程少なかった。毎日毎日暑いなかでの生活、労働、その無限ループ。国民が怒りを顕にし始めたのもこういった側面があるからなのだろう。 「でもそれこそどうするんですか。人工的に雨を降らせる機械でも作るんですか?それをやった所で工業化が進み環境の悪化が発展するだけでしょう?!」 「落ち着いてくれ、騒音を聴くと頭が悪くなる…勿論そんな装置に頼るつもりは無い。そして喜んでくれ、私はもうこの問題に対して策を既に用意してある。」 「本当ですか?!」 「オフコース、単刀直入に言おう我らが国の現状一番の問題、極端な降水量の減少にピリオドを付けるたった一つの救世主…それがこれだ」 スプリング博士はおもむろに何かを取り出した。会議参加者の目が一斉に博士の手に向く。そこにあったのは黒いナメクジみたいな生物だった。 「そう、アメフラシだ」
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