雨よ降れ

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 爽やかな、とある5月の日曜日、達也のチームと、取引先のチームがはじめての試合を行う。ともに急造チームであり、力関係に大差がなかったこともあって、1点を争う好ゲームになったが、最後は、監督兼選手として采配もふるった達也の経験値が上回り、達也のチームが勝利した。  翌月曜日、達也は、社長から直々に呼び出される。“昨日の件の(ねぎら)いかな“、上機嫌で社長室に入った達也に待っていたのは、まさかの叱責であった。  「奥山くん、困るねえ。昨日の野球は、懇親でも親善でもなく、接待だということは聞いているだろう。最終的には、相手方に勝ってもらうようにしなければならないんだよ、君は、そんなこともわからないのかね!」  営業経験がなく、スポーツ畑を歩んできた達也にとって、社長の考えはどうしても納得しがたいものであった。ましてや故意に負けることなど、決して受け入れられるものではなかった。“わざと負けるようなことを求められるのなら、もうやりたくない”。しかし、自分が仲間を誘って結成したチームだ。そうそうに自分が抜けることなど許されるはずがない。  もやもやとした気持ちのなか、第2戦の予定が決まってしまった。達也はふと思いついた。“そうだ、雨が降ればいいんだ”。ゴルフの場合、よほどの悪天候でなければ、そうそう、止めになることは望めないが、野球であれば、ある程度降っていれば、基本的には中止は必至だ。  かくして、達也は、“接待野球”の前夜、テルテル坊主を10個作って、それを逆さまにして軒下に吊るし、“雨よ降れ”と念じ続けた。
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