八月の紫陽花

プロローグ

　歩きスマホは止められない、いつだってどんな時だって推しのＳＮＳをチェックしなければ気がすまない。どうせここは人通りが少ない、前から自転車とか来ないだろうと家までスマホを見ながら帰るのはもはや日課となっている。

「一位キープ、まあ晴海君なら当たり前」

　推しのアイドルグループ、その人気投票の途中結果を逐一チェックしている。絶大な人気の晴海君、二位とは三万票以上の差をつけてぶっちぎりの一位だ。自分の推しを上位にするためファンの間では純粋な応援活動はもちろんあるけど。相手を蹴落とすための妨害活動なども横行していて何が何だかわからない状況になりつつある。一応アイドルたちから「そういう行為はやめてほしい」と注意喚起もあったけど、まあ止まるわけない。

　一位になると絶対裏で何かやってるだろう、と他のファンの連中から逆恨みが多いこと。一位以外ありえない絶大な人気があれば、負け犬が吠えたところで全然気にならない。
　個人でとっている仕事の数は一番多く、バラエティを含めたレギュラー番組は四個持ってる。歌も一番上手くてダンスのキレがやばい、前回の人気投票でも余裕で一位に輝いた。前回の一位ご褒美企画だったソロＣＤ、最高だった。絶対晴海君の為に書き下ろされたでしょあの曲。

　初めて出たドラマは演技がすっごく上手くてびっくりした。一回限りのゲストキャラだったけどその回だけ視聴率２０％を叩きだした。これはもうアイドル枠を超えて人間国宝にするべき。
　今回のランキングで一位になった人はドラマの主演間違いない。はっきり発表したされてないけど、わかりやす過ぎる匂わせが多い。もうこれは間違いなく晴海君がドラマに出るために開催されたと言っていい。世間一般で見ても晴海くんが一番人気なのはもう周知されてる、そこでランキングなんかやったって晴海くんが一位になる以外ない。

　スマホのホーム画面で赤い薔薇を持って笑っている晴海くん。色素が薄いから濃い色のアイテムがよく似合うんだよね。そしてスマホから目を離したら晴海くんがいた。
　一度スマホの画面を見てもう一度晴海君の方を見る。

　いや間違いなく晴海君だよね、毎日毎日見てるからそりゃよくわかる。でもなんでかな？　どうして？

　なんで頭だけなんだろう。