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お土産は?
その夜。
「…あ、レンデスト様。おかえりなさいま…」
と言いかけたロメリアを無視して自室に飛び込んだ。カスミラは? いない。どこだ?
「…あのー…」
一週間不在だったから妻に会いたくて仕方がないのか。と思ったらしいロメリアは、にこにこしながらこんなことを言う。
「カスミラ様は応接室にいらっしゃいますよ。サンブラント殿下とガーベラ様とご一緒に」
「サンブラント…!?」
ドアを開けて中に飛び込むと、三人が楽しそうに笑っているのが見えた。その三人は自分が飛び込んできたのを見て驚いたように目を丸くする。
「あれー? もう戻ってきたのか? おかしいなぁ。普通なら一ヶ月かかる仕事だった筈だけど? お前、ちゃんと仕事してきたのか? それとも他の奴らが手を抜いてるのか?」
「ほらー。ちゃんと一週間で戻ってきたじゃないですか。良かったですね。カスミラ様」
「先生。おかえりなさい。お疲れ様でした」
「…」
皆、変わりなく見える。一体どうなってるんだ? カスミラとガーベラは裁判の事を知っているのか?
「サンブラント。…ちょっと…」
「ん? 愛妻差し置いて俺に何の用?」
「苦情に決まってるじゃないですか。ね? 先生」
「…」
おろおろ。とカスミラは自分とサンブラントを交互に見ている。…言えない。どうしよう。
そのカスミラを見ていたらサンブラントが割り込んでくる。
「そうそう。そういえば。なぁ、カスミラ。聞いてよ。この前ガーベラとオセロしたんだけどさ」
「オセロ?」
きょとんとした顔でカスミラが聞き返すと、ガーベラの顔が引きつった。
「え? さ、サンブラント殿下! その話は…」
「こいつ、最終的に全部ひっくり返されてやんの。嘘みたいじゃない?」
「…え? ガーベラ…そうなの?」
さすがに驚いた様子でカスミラが呟く。
「違うんです! あれはっ。…調子が悪くて…」
「お前、本当に弱いよなー。『一枚も取れないとかある? 俺もまさか、あんな完全勝利できるとは思ってなかったわー』」
そう言ってサンブラントはレンデストに笑う。
「…」
はぁーーー。と、大きなため息を付いてレンデストはその場に崩れ落ちた。
「えっ? せ、先生。大丈夫ですか?」
慌ててカスミラが立ち上がってレンデストの肩に手を置く。
「サンブラント殿下の人でなし! あたしの恥ずかしい過去をばらしただけでなく、先生にまで酷い事して! 人でなし!!」
「どさくさに紛れて苦情言うなよ。本当の事だろー?」
「むっきー! …でも、先生本当にお疲れの様ですね。あたし達は帰りますか?」
「いや、まだ帰らない。本当にちゃんと仕事したのか確認しなきゃならないしな」
「したに決まってるでしょうが! サンブラント殿下じゃあるまいし! ねえ!? 先生!? 何か言い返した方がいいですよ!?」
「いや…大丈夫。大丈夫…」
気が抜けたらほぼ徹夜だった一週間が急に体に応えてきた。ガーベラ。頼むから余り騒がないでくれ。有り難いけど頭に響く。そう思いながらふらふらと立ち上がると、にやにや顔のサンブラントと目が合う。
「それで? 土産は?」
「そんなものある訳ないだろ…」
「えー? 買ってこいって言っただろ? カスミラだって待ってたよな。夫が長期出張に行って土産の一つも買ってこないってどうなんだよ。なあ?」
「え? わ、私はそんな事。先生、そんな事思ってませんから」
「いや、本当にごめん。次は必ず買ってくるから」
「せ? 先生? 本当に気にしないで下さい」
「本当にいい子だなぁー。カスミラは」
「サンブラント殿下も、ちょっとは見習ったらどうですか…」
「レンデスト様。失礼致します」
と、やっと席に着いたレンデストにロメリアがお茶を持ってきてくれる。
「あ…ありがとう…」
と小さな声で言ったら楽しそうなサンブラントの声が聞こえてきた。
「ロメリアも土産くらい買ってこいよって思うよな?」
「え? いえ。そんな事は」
「正直に言って良いのに」
「殿下、そういうのパワハラって言うんですよ。ロメリアさん。良かったら一緒にお茶飲みましょうよー。女子三人でサンブラント殿下を懲らしめなきゃ」
「い、いえ。そんな。とんでもございません」
「何で? 良いじゃん。もうレンデストも戻ってきたし。な?」
そのサンブラントの言葉にカスミラも嬉しそうに頷く。
「ロメリアさんも一緒にお茶しましょう」
隣で疲れ切った様子なのにレンデストも笑って頷いてくれる。
「…本当に宜しいのですか? あの…では、失礼します…」
「ん? ちゃんと自分の飲み物持って来いよ」
「え? でも」
「お菓子も一緒に食べましょう。お茶は必須ですよ!」
「本当なら土産のお菓子もあった筈なのになー」
「サンブラント殿下。いい加減しつこいですよ」
あはははは。と、その日はずっと楽しそうな笑い声が止まなかった。
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