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第1章 お化けの姫君
1ー1 孤児
わたしは、雨の日が嫌いだ。
理由は、いくつかあるけれど、一番には、この豊かな青みがかった銀色の髪のせいだ。
この癖の悪い髪のせいでわたしは、雨の日は、綿ゴミのお化けと言う名で呼ばれていた。
わたしは、こんな髪短く切ってしまいたいのだけど、生まれたときから一緒の猫竜のマオは、わたしが髪を短くしようとする度に反対するのだ。
マオいわく、「銀色の髪は、王族の証なんだよ」
こんな孤児院で暮らす子供が王族のはずはないし、マオがそんなことを言ってもわたしは、バカな猫の戯言だと相手にしない。
だけど、バカな猫竜よりもバカな連中がマオの言葉をきいてわたしのことを『綿ゴミのお化けの姫君』と囃し立てるのには閉口してしまう。
ほんとにバカな連中。
雨の日の午後、わたしは、一人で窓の外を眺めながらため息をついていた。
生まれてすぐにこの竜人族のシスターが営む孤児院に入れられたことは、わたしにとっては、幸運だったのだろう。
例え、刺激の欠片もなくって死にたくなるほど退屈な日々だとしても、ここにいれば飢えて死ぬことはなかった。
まあ、飢えてないというだけだけどね。
毎日、トゲゴボウの実と芋のスープと固い黒パンしか与えられはしないけれど、なんにもないよりはまし。
時々、マオが捕まえてくるオオトビネズミが唯一の肉だった。
ほんとならここは、ペットを飼わせてくれるようなとこじゃないけど、マオは、別。
だって、マオのおかげでわたしは、生きているんだから。
魔物の森で旅の行商人に見つけられたとき、魔物からわたしを守ってくれていたのはマオだった。
マオとわたしは、どうやら特別な絆で結ばれているようだ。
マオの左の前足とわたしの左手のこうには、同じ紋様がある。
なぜなのかは知らないけど、わたしたちは、主従の契約で結ばれているのだと言う。
なんで、生まれたばかりの子供と猫竜が主従の契約を結んでいたのか。
それがわかる人で生きている人は、一人もいない。
まあ、わたしにしろ、誰にしろ、もうそんなことに興味を持つものはいないんだけどね。
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