第1章 お化けの姫君

2/11
145人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
 1ー2 王女様  この孤児院には、王女様がいる。  それは、もちろんわたしじゃない。  シスターも子供たちもみんな、わたしのことは、『カイラ』と呼んでいる。  カイラというのは、わたしの本当の名前じゃない。  それは、竜人族のスラングで『薄気味悪い』っていうような意味がある言葉だ。  いつも人には見えない何かと話していたわたしのことを見てシスターたちがそう呼び始めたのだ。  子供たちがわたしにいたづらするとシスターは、その子供たちに言うのだ。  「そんなことしたら、カイラの見えないお友だちにどこかに拐われてしまうわよ」  まったく。  わたしの友だちは、子供を拐ったりしない。  子供を拐うのはシスターたちの方だ。  シスターたちは、要らない子供をつれてきては働けるようになるまでここで育ててよそに売っている。  そのお金でこの孤児院は、営まれているのだ。  だから、より高くいい人に買われることは、みんなのためになるのだった。  ここで一番高くで売れそうな子は、ルイーズという子だ。  ちょっと地味なわたしとは違ってルイーズは、きれいな長いさらさらの黒髪をしていて、頭もすごくいい。  だから、みんなから『王女様』と呼ばれている。  同じ日に拾われてきたというのに大違いだ、とシスターたちも話していた。  ルイーズは、誰にでも優しいけど、わたしにだけは優しくない。  でも、ルイーズがわたしに何をしても誰も文句をいわない。  だって、彼女は、ここの王女様だから。  だけど、わたしは知っている。  なんでルイーズがわたしにだけ意地悪なのか。  ルイーズは、わたしに嫉妬しているのだ。  何も持たずにここにただ一人捨てられた彼女とは違い、わたしには、マオがいる。  それだけのことで彼女は、わたしが許せないのだ。  ほんとにどうでもいいことだよね。  わたしは、ルイーズに何をされても黙っている。  それは、彼女がかわいそうだから。  例え『王女様』とか呼ばれていてもルイーズは、一人ぼっちだ。  本当の仲間なんて彼女にはいない。  それに比べると、わたしには、マオがいる。  生まれたときからわたしたちは、ずっと一緒だ。  たぶんこれからも。  
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!