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1ー7 襲撃
魔物の森は、わたしたちが住んでいる村から半日ぐらい歩いたところにある。
森へと向かう道を歩いていく間に、誰ともすれ違うこともなかった。
猫竜のマオは、飛んで行けるけどわたしの歩く早さに合わせてゆっくりと歩いてついてきた。
マオは、猫竜の子供だ。
猫竜だって大きくなれば立派に騎乗できる。
でも、マオは、まだちょっと大きめの猫ぐらいの大きさだった。
たぶん、孤児院の食事のせいだ。
いくらマオが時々、狩りをしに森に行っているにしても普段は、孤児院で子供たちの食事の残り物をわけてもらっている。
要するに、残飯だ。
こんなもの食べていたらマオは、永遠に立派な猫竜にはなれないだろう。
でも、わたしは、小さなマオのことも好きだ。
寒い夜には抱いて寝れる。
もふもふのマオの毛並みに顔を埋めると嫌なことも忘れられるのだ。
わたしたちは、薄暗くて静かな森の中へと入っていった。
マオは、狩りのためにたまにこの森にきているから、先に立って歩いてわたしを誘導してくれた。
わたしの探している薬草は、森の入り口付近の沼のまわりに生えていた。
緑色の小さな花をつけたその薬草をわたしは、丁寧に根本から採集した。
幸いなことにもう一つの薬草も近くに群生していたのでわたしは、それもそっと抜き取っていった。
ある程度採集するとわたしは、立ち上がって戻ることにした。
わたしが立ち上がったとき、森がざわついていることに気づいたマオが背中の青灰色の毛を逆立たせた。
森の奥から何かが争うような音がきこえてきた。
うん。
ヤバイんじゃない?
わたしが急いでその場から立ち去ろうとしたとき、誰かの叫び声がきこえてきた。
わたしは、手に持っていた薬草をスカートのポケットに押し込むと声の方へと走った。
しばらく物音がする方へと走っていくとちょっと開けた場所に出た。
巨大な狼の群れに馬車が囲まれていて何人かの騎士らしき男たちが戦っていた。
けれど、どうやら男たちの方が劣勢のようだ。
わたしは、木の影から覗き見ながら考えていた。
どうする?
このままじゃ、この人たちはみなやられてしまう。
村まで戻っている暇はなかった。
わたしは、ちらっとマオの方を見た。
マオは、はぁっとため息をついた。
「仕方がないわね」
マオは、駆け出すと一人の騎士に飛びかかろうとしていた魔狼に爪を立て、首に噛みついた。
魔狼は、犬みたいな悲鳴をあげてマオを振り払おうとした。
その隙にわたしは、馬車に近づくと中の人に呼び掛けた。
「大丈夫?」
「私は、大丈夫です」
馬車の中から小さな声がきこえた。
わたしは、ほっと吐息をついた。
すぐに馬車の回りに友だちに頼んで障壁を作り出すとわたしは、倒れている騎士の方へと近づいていく。
騎士といってもわたしが騎士を見たことは神託を受けるために領都の聖堂に行ったとき一度だけだったのだけれど、たぶんこの人たちは、騎士だろう。
わたしは、かろうじて息をしている騎士の方へと歩み寄るとこの人たちを癒して欲しいと友だちに頼んだ。
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