これからもよろしく

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4階建て、15戸、築40年のマンション。 オーナーは僕の母で、2人で最上階の4階に居住中。 ちなみに、母の弟、僕にとっての叔父が2階で独り暮らし中。 仕事から戻ったその叔父が、うちのリビングで母となにやら話をしている。 まぁ、母の疎開についてのことだよね。 コンコンコンと、速いテンポで、部屋のドアがノックされた。 「いいかい?」 叔父の声は何か言いたそうな雰囲気を醸し出していたから、どうしたものか。 加えて、金曜の夜で、僕はブンデスリーガ、サッカーの試合を視聴中。 「まぁ、どうぞ」 僕はドアの向こうで待つ叔父に、歓迎してるわけじゃないですよって、伝わるように言ったつもり。 「ど」のあたり、僕の許可がおりる前にドアが開いた。 「こんばんは。何してる? ん? サッカー観てるのか」 180センチある叔父は以前は体重もかなりあった。圧倒的に大きくて、威圧感ありあり。それが3年前、ガンの手術と療養を経て、15キロの体重減。 今はスマートというか、やつれた感じ。それでも、背丈あるからね。見下ろされると、圧を感じる。 「君はどうして行かない? 姉さんと一緒に行くべきだ」 いきなりのストレートな物言いが、とても叔父らしい。 「いや、だって、行きたくないし」 「ここよりよっぽど安全だ、一緒に行くべきだ」 「無理、行かない」 「どうして?」 「嫌だから」  ふーっと、大きなため息をつかれた。 「君は勇気をだして、外に出るべきだ」 「・・・・・」 「5年も自由にさせてもらったんだ。これからは君が頑張れ」 僕をじっと見つめながら、叔父はさらに辛辣な言葉を浴びせてくれたけど、僕は途中から聞いてない。 『あなたには関係ないでしょっ』て、叫びたいけど声にはできない。 僕は高校を途中で辞めてから、基本、ずっと家にいる。 この5年、外出といえば、近所の散歩とスーパーへの買い物ぐらい。仕事はしたことがない。僕の現在の立場はニート、引きこもりってやつですね。 「ネット環境が充実していて、静かな個室があって、一切うるさいことを言われることなく過ごせるのなら、行くかもしれない」 僕の発言に、叔父はもう一度、深くため息をついた。 「ニュースをご覧。君と同い年の子が、戦ってる」 そんな捨て台詞を吐かれて、ドアが閉められた。 そんなの知ってる。この前だって、動画に流れてた。 国を護るって叫んでた。 戦場になった街では女性も子供も爺ちゃん婆ちゃんも死ぬ。略奪も拷問もレイプも誘拐も飢餓も病気もありふれていて、死が隣あわせなんだ。 でも、それは画面の中で起こったことで、僕には未だ他人事、リアルに感じることができない。 だって、僕は冷暖房付きの部屋で快適生活。ネットで世界中と繋がって、YouTubeで動画視聴、Netflixで映画やアニメに浸り、プレステのゲームで敵を倒しまくってる。 こんな僕は駄目ですか。馬鹿みたいに見えますか。 だって、僕はこの生活が好き。手放したくないんだ。 愛国心が足りないとか、そういうのは聞き飽きてるからやめといて。
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