これからもよろしく

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この5年間、ずっと考えてる。 何が悪かった? 迷惑だった? 傷つけた? 約束を破った? 嘘をついた? 自慢が過ぎた? 皆に無視されるほどの酷いことって、何をしたっけ? 僕は家にひきこもって、反省の毎日。 「面白くない」「馬鹿みたい」「つまらない」「興味ない」 そんな言葉が口癖だったかもしれない。僕は嫌われて、当然か。 何が言いたいかというと、僕は相手を尊重することなく、簡単に否定したり、言葉尻をとらえて批判したりする嫌な奴だってこと。 本領発揮して、この人たちに聞いてみたい。 あなた方は志願しないの? どうして? 年齢の問題?  見ず知らずの僕に声をかける前に、自分の親族、知人、全てに声をかけましたか?  ねぇ、国を守るって、それって、つまり現政権を守るってことでしょ。戦争が始まる前、毎年、何十件も議員や官僚の汚職が報道されてましたよね。 今は、そんなニュースはないけどさ。 地位を利用しての金儲け、汚職、あんな奴らのために、戦えって? 引きこもり生活で、実は僕の身体に変化が生じてる。 喋る回数が激減したせいか。頭は回っても、口から言葉が出てこない。 これ、無用な軋轢を避けるには、よい傾向かもしれない。 「侵略者からこの国を守れ!」 「奴らを叩き殺せ!」 攻撃的な言葉の羅列に、僕はうんざりしながら「うんうん」とうなづいてみせた。 「でも、そういうの、僕には向いてない」 反応を得たことで、勧誘業の二人は笑顔を見せた。 「そんなことはない」 「君の力が必要だ」 フフンと鼻で笑ってしまう。誰からも相手にされなかった僕が必要だって。嘘でしょ、そんな。 「無理。見ず知らずの人間を、僕は殺せない」 学校では誰も傷つけてはいけないと習った。身体的はもちろん精神的にも。それなのに僕は、皆を傷つけていたのかな。だから、あの日から、誰にも相手にされなくなった。 「僕は集団行動が苦手だし」 肩をポンポンと叩かれた。 「大丈夫。軍隊はいろんなタイプの人間を受け入れる。3ヵ月で優秀な兵士を作るシステムができあがっている」 「最新の訓練を受けることができます。大丈夫、あなたは変われる」 「いや、僕は・・」 変わりたいわけじゃないとは、言えなかった。 僕の望みは今の生活を送り続けること。だけど、やっぱり後ろめたさを感じてはいる。 皆に誉めて欲しい気持ちもあるさ。でも、僕は他人と上手くやる自信がないし。 「この子は療養中ですからっ!」 トーンのうわづった声に顔をあげるとキャリーケースを手にした母が目の前にいた。 「病気がようやく治りつつあるんです。兵隊なんて無理です」 僕の手を取り、ベンチから腰をあげさせた。 「ほら! 行きますよ!」 僕は急き立てられた。 ゴロゴロとケースを引きずって去って行く僕と母を、二人の勧誘屋がヤレヤレと言った感じで見送った。 「どうして、あんな所に座ってるの!?」 「え・・?」 「勧誘してって言ってるようなものでしょう?」 「・・・ごめんなさい」 「興味があるわけじゃないでしょう!?」 「うん・・兵隊とか、向いてないし」 母は帰り道、怒りが収まらないようだった。 僕が悪い。楽しく出発前の日々を過ごしたかったのに、不機嫌にさせてしまった。 「ごめんなさいね」 突然、ずっと黙って怒った風の母から謝罪の言葉。 「え?」 「さっきのこと。病気療養中だって言ったこと」 「ああ・・」 「お母さんは、病気だなんて思ってないわ」 「うん」 「必要な時間なの。きっと電池が切れちゃったの。今まで頑張りすぎたから。大丈夫、その時がくれば、あなたはちゃんとやれる」 「そうかな?」 「そうよ。きっと、そうなのよ」 僕は充電中なのか。一般的に人生で一番キラキラしてるって言われる十代後半を全て充電期間にあててしまった。 「ごめんね、お母さん、一緒に行けなくて。叔母さんの家で上手くやれる自信がないんだ」 「・・・いえ。あなたが家を守ってくれるから、私が安心して避難できるの。これは立派なことよ」
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