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僕の家、4階建てマンションの屋上に、道を隔てて建つ高層ビルの一部が突き刺さっている。
現代アート、どこかの著名な建築家が作ったみたい。
ミサイルで破壊された一部が吹っ飛んで、うちの建物と合体していた。
高層ビルは半壊状態。それに伴い、付近一帯の家屋もダメだ。うちは、崩れ落ちてはいないけど、僕の部屋は潰れているかも。
「そこの家の住人だ」って叫んでも、テープで囲われた立入禁止区域より先には警察や消防以外、近づくことが許されない。
僕は、ただ何時間も、消防・救急活動を眺めていた。
入れ替わり立ち代わり、僕の横には、やじ馬たちが来て、こりゃすごいって、写真を撮っている。
インスタグラムにアップされるのかな? 芸術的な破壊のされ方だから、うちのマンション、世界の人の目に触れるかも。
・・・母が見たら、きっと泣く。
「あれは僕の家だ」
「え?」
隣で写真を撮っていた男が目を丸くして、僕を見た。
「止めてくれ。見せたくない。どうして、なんでこんな目にあわなくちゃならない・・」
声が裏返ってしまった。嗚咽ってこういうものか。誰かの前で泣くなんて、何年ぶりのことだろう。
「気の毒に」
男は僕の背中を優しく叩いた。
「この惨状を世界に届けよう。奴らの悪行を知らしめるんだ」
母に見られたくないって言ってるのに。理解してもらえない。
もう、本当に涙がとまらない。
約束したのに。僕が守るって。
僕はどうすればいい? 何故? 僕が何をしたっていうんだ?
立っているのも辛すぎて、僕自身が崩れそうになったその時だった。
「無事だったか!」
後ろから不意に現れた2本の腕に僕の身体はがっちりロックされた。
強く強く抱きしめられた。
叔父の顔が僕のすぐ横にあった。
「よかった、無事でよかった!」
抱擁とかのレベルじゃなくて、ギュッと締め付けられて痛くてヤバい。
「どこもケガはないか、大丈夫か?」
いったん離れると、次は僕の全身をポンポンと大きな掌で叩いて確認を始める。
ああ、この人は、僕が思う以上に、僕を愛してくれているのかも。
愛してくれるのは母だけだと思ってた。勘違いしてた。
膝をついて僕の身体の具合を点検し続けている叔父に、今度は僕からしがみついてみた。
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