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陽が完全に落ちて、母と二人での夕食タイム。
TVからは、今日もどこかの街に落とされたミサイルの被害、そして最前線で戦う兵士たちの姿が映された。
今年、50歳となった母は、口にした肉を咀嚼し終えると、上目遣いで僕をみた。
これから何か、大事なことを話すつもりなんだって、わかる。
自分から聞き出すべきか。でも、迷っているのなら、それは余計なことのような気がするし。
僕なりに思い悩みながら、肉とジャガイモがメインの煮物を口いっぱいに頬張った。
そんな、食欲旺盛な小学生のような姿をみて、母が微笑んでくれた。
「やっぱり、しばらくは叔母さんの家に行こうと思うの。ねぇ、どうする?」
この話題は戦争が始まった当初にも出た。
その後、戦況が膠着状態に陥ったから、なんとなく流れてしまっていたのだけれど。
西の国境付近に住む叔母の家は、疎開にはもってこい。隣の国まで20キロ。歩いたって半日でどうにかなる。本当にやばくなるまで、ギリギリまで国外脱出を粘れる位置にあるからね。
「あなたは、どうする?」
「・・・」
一応、悩むそぶりをした方がよいのか。いや、そういうの必要ないか。
「ここに残るよ。行かない」
「そう」
母も、この答えをわかってたと思う。表情は特に変わらなかった。
「用意ができ次第だけどね、来週、火曜日には発ちたいと思ってるの」
「うん、何が起こるかわからないし、早い方がいいよね」
母はフォークを置いて、目を閉じた。泣きだしそうな顔をしている。
この街で生まれて、ずっとここで生きてきたわけだしね。
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