第147話 幸せな朝ごはん

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第147話 幸せな朝ごはん

5c59f88d-9292-4e12-a9f1-99c012720c58 朝7時30分。 朝ごはんの準備ができた。 4人は、台所のテーブルの席についていた。 白いごはん、お味噌汁、鮭、卵焼き、 ひじき、ほうれん草のお浸し、海苔、お茶  白米とお味噌汁からホカホカと湯気がたっている。 昭和の日本人の完璧な朝ごはんが、そこにあった。 英慈(やっぱり、陽子さんの料理、最高だ!) 和食好きの英慈の目は輝いた。 真一郎・陽子・英慈・萌 「いただきます。」 4人は朝ごはんを食べ始めた。 真一郎「飯島さん、よく眠れましたか。」 英慈「いえ、あまり眠れませんでした。」 英慈の目は充血していた。 陽子はブッと笑った。 陽子(本当に眠れなかったみたいね。 萌に手を出さなかったのね。) 萌「もう!おばあちゃんが同じ部屋に布団なんてひくから!」 英慈「いや、僕たち、何もしてませんから!なっ、萌。」 萌「そ、そうだよ! 普通に寝たから。 変な気を回さないでほしかったよ、ホントにもうっ!」 陽子は、慌てふためいている二人を見て、面白がっていた。 陽子「あらっ、そう。うふふふ…」 陽子は意地悪な目をしていた。 真一郎は少し不機嫌だった。 真一郎(まだ結婚するって決まったわけでもないのに、陽子、やりすぎだろ!) 英慈は、おいしい白飯にパクついてたので、アッという間にお茶碗が空っぽになってしまった。 陽子「飯島さん、ごはんおかわりはいかが?」 英慈「あっ、はい! いただきます! 昨日のちらし寿司もうまかったです!  でも、この白いごはんはまた格別ですね! 僕、本来、少食なんですけど、お米がうまいからつい食べすぎちゃって。 本当にこのお米、とてもおいしいですよ! こういう米は、東京じゃ食べられないですからね!」 真一郎は喜んだ! 真一郎「そうかい!そうかい! やっぱり飯島さんは、味がわかるんだね!俺が作った米なんだよ。これは!」 萌「私もおかわり。大盛りでちょうだい。おばあちゃん!」 陽子「はいはい。いっぱい食べてね。二人とも。」 陽子はクスッと笑った。 真一郎は英慈にお米を褒められて嬉しくなった。 真一郎は、英慈の、裏表のない明朗快活な人柄に魅了されていた。 英慈は相手の懐に入るのがうまい。 謙虚に振る舞い、上の人を立てるので、特に、年配の人に気に入られる。 人つき合いがうまく、誰にでも好かれる。 だから、政治家に向いていた。 4人は和やかに朝ごはんを食べた。 真一郎と陽子はニコニコと、機嫌よく笑っていた。 陽子(まるで、娘夫婦と一緒に朝ごはんを食べてるみたいだわ。 なんか嬉しい… この光景が現実のものになればいいのに。) 真一郎(萌と英慈くん、このまま、まとまってくれたらいいのになぁ。) 陽子も真一郎も、未来の娘夫婦を見ているようで、ほのぼのとした幸せな気持ちになっていた。 萌「あ、おばあちゃん。 英慈さんは、今日の夕方東京に帰るからね。」 真一郎「えっ!もう帰るのかい!」 陽子「あら、今日帰るの! もう少し泊まってけばいいのに。」 英慈「ええ。うちの実家にも行かなくちゃならないので、今日帰りますよ。」 真一郎「そうかい。…そうだよな。 自分の家にも、帰らないとな。 お盆なのに、真っ先にウチに来てくれたんだもんな、悪かったね。 飯島さん。」 英慈「いえいえ、実家に帰るって言っても、うちは埼玉なんで、しょっちゅう帰ってるんですよ。 ただ、お盆なんで、お墓参りにはいかないと。やっぱり。」 陽子「あら、飯島さんのご実家には仏様があるの?お父様はご長男なの?」 英慈「………。いえ、まあ。ウチは少々複雑でして。 両親が離婚して、僕は母方につきました。」 陽子「まあ、そうだったの。」 英慈「まあ…僕の実家では、母が自分の親の供養をしてますよ。母が一人娘なんでね。」 真一郎「じゃあ、お母さんは、英慈くんがこんなに立派になって、さぞかし喜んでいるだろうね。」 英慈(あっ、はじめて「英慈くん」って、呼んでくれた!) 英慈「アハハ… さあ、それはどうですかね~」 英慈は謙遜した。 陽子はここぞとばかり、突っ込んで聞いた。 陽子「じゃあ、今は、飯島さんのお父様はどうしていらっしゃるの?」 萌「おばあちゃん!」 萌は陽子の口を止めようとした。 英慈「いや、いいよ。萌。 そういう話もしておかなくちゃいけないから。 ウチは僕が高3の時に離婚して、父とはそれ以来、疎遠になっています。 でも、噂だと、今も看護師してるみたいですよ。 あ、父は、前は看護師長だったんですけどね。」 萌「英慈さんのお母様は、保育園の園長先生なんだって。今も現役で。」 陽子「看護師長と、園長先生だって! すごいわね!真一郎さん!」 真一郎「ああ、すごいな。 だから、英慈くんはしっかりしてるんだ。きっと小さい頃から。」 英慈「いえ、すごいことなんて何もないですよ。 父は、単に看護師不足だったから、必然的に上に上がったって、言ってましたから。 それに、今は転職して、新しい病院なんで、もう師長はしてませんよ。 母も同じこと言ってましたよ。 若い保育士はすぐ辞めちゃうから、ベテランがどうしても少なくなるって。 なり手がいないから、園長を引き受けざるをえなかったって。私立なんでね。いわゆる『雇われ園長』です。」 萌「そうだよね。 看護師も保育士も、世の中になくてはならない職業だものね。 しかも、人手不足の職種よね。」 陽子「そうなのね…。 ウチは農家だし、私達は気楽だわね。」 英慈「でも、まあ、お恥ずかしい話ですよ。離婚なんて…。 どんな立派な仕事してても、離婚なんてね…。 夫婦円満がいちばんですよ。 真一郎さんと陽子さんみたいな。」 陽子「まあ…」 陽子は照れた。 英慈「だから、僕は、真一郎さんや陽子さんのような方々の、温かい家庭で育った、明るくてまっすぐな萌さんに惹かれたのかもしれませんね。僕は。 それに… 昔も今も変わらずに、仲が良い、真一郎さんと陽子さんご夫婦は、僕の理想の夫婦像ですよ。」 陽子「え〜いやあね〜。 飯島さんたら! 『理想』だなんて!」 真一郎「いや〜それほどでも!」 英慈の褒めトークで、湿っぽい話が一気に明るくなった。 英慈はまた、真一郎と陽子の心をつかんだ。 英慈が言ったことは本心ではあったが… 英慈は相手をいい気分にさせて、相手の懐に入るのが本当に上手かった。 萌(やっぱり、この人、天性の人ったらしだわ! 話がうまいし、やり手だわ。 英慈さんって!) 萌は分析していた。 萌「あの…えーと、とにかく! 夕方まで、私、英慈さんに宇都宮を案内してあげようと思って。 英慈さん、宇都宮の観光はしたことないから。 いいでしょ? おじいちゃん、おばあちゃん。」 陽子「ええ、いいわよ。 ゆっくり遊んできなさいよ。 萌ちゃんのお盆休みは今週末までよね?」 萌「うん。私は休みギリギリまでこっちにいるから。」 食事が終わった。 陽子は片付けを始めた。 萌も手伝おうとした。 陽子「ああ、萌ちゃん、手伝いはいから。これからちょっと買い物に行ってきてくれる? 私も真一郎さんも忙しいから。」 萌「うん。わかった。」 陽子は紙に買うものをメモして渡した。 陽子「お願いね。」 萌「うん。」 萌は車で買い物に出かけた。 真一郎「飯島さん、ちょっと話があるんだけど、いいかい?」 英慈は、なにか真面目な話だと勘が働いた。 陽子は片付けをやめて、お茶を入れ始めた。
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