第148話 真一郎の告白

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第148話 真一郎の告白

c6ae330e-fd5e-48be-8829-03b5bfd2f3e6 真一郎「飯島さん、ちょっと話があるんだけど、いいかい?」 英慈「あ、はい……」 (また、「飯島さん」に戻ったか…。打ち解けたと思ったんだけどな。 それとも、なにか難しい話なのか?) 真一郎「飯島さん、こっちで話そうか。」 英慈(やっぱり難しい話なのか?) 英慈「はい…」 真一郎と英慈は台所から居間に移動した。 すぐに陽子がお茶を持ってきた。 陽子は3人分のお茶を置いた。 陽子は真一郎の隣に座った。 二人は、英慈とは向かい合っていた。 英慈(なんだろう?あらたまって。) 真一郎はお茶をゴクリと飲んだ。 真一郎「飯島さん、おまえさん、萌のこと、本当のところどう考えてるんだい?」 英慈「えっ?」 真一郎「昨日、つき合いを認めてくれと言っていたが…。 萌は孫とはいえ、私らの大事な一人娘なんだよ。 だから、あんたがこの先、萌を弄んだりしたら、俺は許さないよ。」 陽子「ちょっと!真一郎さん! 弄ぶなんて、なんてこと言うのよ! そういう話じゃないでしょ!」 英慈「弄ぶなんて、とんでもありません! 本当は! 本当は…僕は『萌さんと結婚を前提におつきあいさせてください』って、言いたかったんです!あの時! でも、今はまだ萌さんにまだ結婚する気がないみたいなので、昨日は言えなかったんです。 僕は! 本当は、今すぐにでも結婚したいと思ってるんですよ!僕は! でも、萌さんは今、司法試験の結果待ちなので、結婚なんて眼中にありません。 受かったら、当然、弁護士として経験を積みたいみたいですし。 だから、僕は、萌さんにとって、いいタイミングが来るまで待つつもりなんです!」 陽子「飯島さん… 萌のこと、待ってくれるの…」 英慈「はい!待ちます!いつまでも! 萌さんが納得するまで! 本当は早く入籍したいんですけどね。」 陽子は感動していた。 真一郎「飯島さん、それは本心なのかい?」 英慈「もちろんです!!」 真一郎は英慈の目をジッと見つめた。 英慈の本当の気持ちを見極めたかった。 だから、真一郎は英慈の目を睨んだ。 強い目で…ずっと英慈の目を睨んでいた。 強い目で、 ジッと、 ジッと、 睨んでいた。 それは、まるで狼が外敵から自分の子どもを守るかのようだった。 真一郎は判断した。  心が決まった。 真一郎「そうかい…。 あんたのその気持ち…本物らしいな。 ちゃんと結婚を考えてくれてるんだな。 安心したよ。 ただ『つきあいたい』って言って、すぐ別れましたじゃ、萌が傷つくだけだからな。親にまで会ってさ。」 英慈「真一郎さんのお気持ち、十分にお察しいたします。 真一郎さんも陽子さんも、萌さんをとても大切に育ててきたのがわかりますから。」 真一郎「飯島さん…」 英慈「僕は自分から萌さんと別れるつもりなんてありませんよ。 ただ萌さんが一方的に、僕に愛想を尽かしたら、わかりませんけどね。 アハハハ…」 真一郎「…………」 真一郎はジトッと英慈を見た。 英慈「じょ、冗談ですよ! たとえ萌さんが別れたいって言っても、僕は簡単には別れる気はありませんよ。 だって、萌さんは素晴らしい女性ですから。 優しくて正義感が強くて可愛くて…心が綺麗で、萌ちゃんみたいな女性は、滅多にいませんからね。」 真一郎「飯島さん! あんた、そんなに萌のこと、好いてくれてるんだね!」 英慈「はい! 今すぐにでも結婚したいって、言ってるじゃないですか!」 真一郎「じゃあ、あのこと、飯島さんに話してもいいよな、陽子。」 陽子「ええ。」 英慈(あのこと?) 真一郎は席を立って、一枚の茶封筒を持ってきた。 真一郎「飯島さん。これを見てくれ。」 真一郎は英慈に茶封筒を渡した。 英慈は茶封筒を受け取り、中身を見た。 英慈「これは!!」 ……… ……… 戸籍謄本だった。 真一郎「これが萌の出生の秘密だよ。あんたが、萌のこと、どこまで知ってるかわからないけど、ちゃんと知っといたほうがいいと思ってね。 誤解のないように。」 英慈「…………」 真一郎「ヒデちゃんとコウちゃんにいろいろ吹き込まれたみたいだからさ。」 英慈はこの戸籍謄本をじっくり見ていた。 英慈「つまり……」 英慈はプロだから、すぐに理解した。 英慈「萌ちゃんは、真一郎さんと陽子さんの実の娘の真理子さんから産まれた。 父親の名前が空欄ということは、婚外子ですよね。 認知もされてない。 そして……… 真理子さんの死後すぐに、真一郎さんと陽子さんは、養子縁組している。 つまり、萌さんは戸籍上は娘になっている…ということですね。」 真一郎「その通りだよ。 飯島さん、そのこと知ってたかい?」 英慈「いいえ、養子縁組してることまでは知りませんでした。」 真一郎「じゃあ、あとは何を知ってるんだい?」 英慈「ああ、えーと……」 英慈は最初は言いにくそうにしていたが、すべて正直に話したほうがいいと判断した。 だって、そのうち、義父になるのだから…と。 だから、正直に話した。 英慈「萌さんの母親の真理子さんは、アイドルの神崎まりな…だということ、萌さんを妊娠したから芸能界を引退したこと、真理子さんは交通事故で亡くなったこと、あと、真理子さんがご両親のためにビルを買ってくれたこと……を教えてくれました。 僕の知っていることはこれぐらいです。」 真一郎は思いの外、英慈が、想像以上の内容を知っていることに驚いた! 真一郎「あいつら!芸能界引退の理由やビルのことまでペラペラと! ずいぶん余計なことまでしゃべったんだな!」 英慈(ヤバい! 全部言ってちまって、まずかったかな?!) 英慈「あっ…あの…真一郎さんっ… あのときはかなりお酒が入っていましたし…。 榊原さんも柿崎さんも、悪気はなかったんです! 相原さんのお宅の事をとても気にかけておられましたよ。 だから、お二人を責めないでください! それに、もちろん、僕は誰にも言ってませんし、言うつもりはありませんから。ご安心ください。 僕は職業柄、口は固いですから!」 真一郎「別に、俺はヒデちゃんたちを責めやしないけどさ。 あの二人は長年の親友だし、今回のことで、ますます頭が上がらなくなったからな。 ……まあいいさ。それは。」 英慈「それで……父親はわかってるんですか。」 真一郎「まあ、目星はついてるけど。萌の父親と思われる人物は、もう亡くなってるから、DNA検査もできないんだよ。 それに、真理子が亡くなる前に亡くなってるからね。」 英慈「えっ!そうなんですか?!」 (父親も亡くなってるなんて!! しかも、真理子さんより前に!) 英慈「それで、父親は誰なんですか。」 英慈は、前からこれが一番知りたかった。 萌の父親はいったい誰なのだろうかと。 神崎まりなは誰を愛したのか。 頭脳明晰な萌の、父親は誰なのか。 真一郎「……まあ、それはいいじゃないか。飯島さんが本当に萌と結婚した時に教えてあげるよ。」 英慈(やっぱり教えてくれないか…) 英慈「萌ちゃんは、自分が真一郎さんと養子縁組してることを知ってるんですか。 おじいちゃん、おばあちゃん…と呼んでますけど。」 真一郎「知ってるよ。小さい時からね。」 英慈「小さい時から?!」 真一郎「あの子は小さい時から、頭がよくて、物わかりがよかった。 大人びてたんだ。 納得済なんだよ。最初から。」 英慈「…!」 (萌は母親は3歳の時に亡くなったって、言ってたよな。 そんなに小さい時に、事実を伝えるか?!普通…) 陽子「だから、萌は名実ともに、私達の『子ども』なのよ。戸籍上は、孫ではないの。 でも、孫とか子とか、そんなの関係ないの! 私達にとって、そんな戸籍上のことなんてどうだっていいの!! 私達は家族なんだから!! 萌は、私達にとって、かけがえのない存在で、私達の大事な宝物なんだから!!」 陽子は、萌を大切に思うあまり、つい興奮してしまった。 ハッとして、我に返った。 陽子が落ち着きを取り戻すと、真一郎を見て、相槌をした。 真一郎の目の合図を確認すると、陽子は、ゆっくりと萌の生い立ちを語り始めた。
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