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リコ
半年前に、男を拾った。
よくまあここまで無事で過ごせたなと思うくらいに、世慣れしていなくて、素直で初な男。
生乾きの麦藁みたいな髪に、榛色の瞳。
きめの細かい健康的な白い肌と、子どもっぽくはないけどまだ成長しきっていない線の細い肢体。
好ましくて、ずっと嗅いでいるとなんだか眠ってしまいそうな、心地よい香りを身にまとっている。
驚くほどではないけど人目を引く程度には整った容姿をしていて、人を不愉快にさせる要素は少ない。
そんな、不思議な男。
ある田舎の村で、舗装された道の石畳を撫でたり、バカみたいにぱかんと口を開けて街灯を見上げたりしていたので、思わず声をかけてしまったのだ。
リコ、と名乗ったそいつは、国を縦断して辺境に行く予定なのだと笑った。
そのあまりの危なっかしさにお節介だとは思いつつ、気がつけば「俺が用心棒になってやる。俺を雇え」と告げていて、リコとはそれからのつき合い。
実際に雇わせるまでにも、紆余曲折があった。
まず、金、という物を知らなかった。
無一文でどうやって生きてきたんだろうと不思議に思ったが、これまでずっと生まれた里の中にいて、二日ほど前に出てきたのだと聞いて、胸をなで下ろした。
『雇う』ということは知っていても、対価に払う『金・貨幣』ってものを知らなかったので、それを教えた。
はじめにリコが支払おうとしたのは、自分で採取したというやたらめったら希少な薬草だったのだ。
一番近くの街に連れて行って、ギルドに登録し、採取した薬草を売って金を手に入れることを教え、その金で俺を雇わせた。
お節介だ。
ホントに、ただの、単なるお節介だ。
放置しておいてもよかった。
途中までは無料でちゃんと面倒を見てやったんだ、俺を雇わせることなんてせずに、そこで別れることだってできた。
なのになんだか気にかかって、結局、用心棒に収まって半年。
乗り合い馬車を乗り継ぎ、時々は徒歩で、他の隊商に混ざったりしながら、国の中央にある王都を通り越して辺境に向かって旅をしてきた。
半年かけて国を縦断して、明日には目的にしていた辺境伯の治める街に到着する。
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