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6月下旬。
ここ数日、梅雨時期独特のどんよりとした天気が続いていた。今日も朝から雨。降りやまない大粒の雨が地面に叩きつける。
ここは、周囲を山に囲まれた自然豊かな場所にある、とある地方大学。園原結花は、1号棟の屋上で傘をさして柵の近くから真下を見ていた。
1号棟は、広大なキャンパスの中心部分にあり、主に講義が行われる教室のある3階建ての建物である。学生が最も利用する建物であるため、下をみてもまばらだが歩いている学生たちの姿があり、時折笑い声も聞こえる。
しかし、今は3限目の講義の真っ最中。まして雨の中あえて屋外に出る学生などほとんどおらず、屋上には結花1人だけだった。
(ここから飛び降りたりも出来ない、けど……)
結花は大学にこの春入学したばかりの1年生だ。高校とは違う講義形式の授業、大学進学を機にはじめたひとり暮らしなどで慣れない生活で少し気分が沈んでいた。さながら結花の心模様は、この日の天気のようであった。
「こんなところから落ちても、死ねないと思いますよ」
結花の背後から、ビニール傘をさした青年がに話しかけてきた。
「……わたしに言ってますか、それ」
結花はゆっくり振り返り、青年をじっと見つめる。白いワイシャツにオフホワイトカラーのニットベストにスラックスと、シンプルな装いだ。首からは名札をさげていて、細い縁の眼鏡をかけているのが目についた。
「あなたに言ってます。というか、ここにはあなたと僕しかいないので」
「……何か用ですか。ここの職員の方ですよね」
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