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「生きることにも死ぬことにも積極的になれないというのなら、とりあえずとても近い未来のために生きてみましょう。人と会う約束をするんです。明日この人と会う、1週間後あの人と会う。そうやって日々が過ぎていけば、自然と生きたくないと思わなくなるかも、じゃないですか?」
「なるほど……?」
「それに、そう思う理由をうまく言葉に出来ないのであれば、お話しながら探っていくのはいかがでしょう。うまく言葉に出来れば、心の薄もやも晴れるかも」
「そうでしょうか」
「少なくとも試して見る価値はあると思いますよ? 一応これでも生活相談室のカウンセラーなので」
「は、はあ……そうですね」
「あ、でも約束というのは、今年19歳の女の子に対して少し気持ち悪い表現ですね。……んー、では、予約ということで!」
「予約って表現がもはやカウンセリングじゃないですか……」
「いえ、感覚的にはもっとライトな感じで」
「どうして数いる学生の1人に過ぎないわたしに、そこまでしようとするんですか?」
「生活相談室に行ってカウンセラーと話をするという行為そのものを、ハードルが高いものと思っている人もいます。それに、相談もできず1人で考え込んでしまいがちな人にこそ、とりあえず話を聞いてくれる人が必要だと、少なくとも僕はそう思います」
「……わたしは、その1人だと?」
「はい」
「でも何を話せば」
「なんでもいいんです。1週間の間にあったことでも、美味しかったご飯の話とか何でも。今こうして話していると、なんとなく気が紛れていませんか? 少なくとも園原さんは今、柵の向こう側を見ていない」
「たしかに……」
(わたし、いつの間に……)
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