砂漠の黒い影

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砂漠の黒い影

 アル・サドン基地から300キロ離れた地点に、急ピッチで新基地が建設されている。  山岳地帯の中に、短い滑走路と管制塔がすでにでき上っていた。 「しかし、アル・サドンの連中はプロ中のプロらしいな。  政府軍の小僧っ子たちとは言え、4機で28機撃ち落とすとは ───」 「カムス大尉。  自分がカールビンソンにいたときの同僚、ラルフが最近入ったそうです」 「どんな奴だ」 「ジェットエンジンをやたらブン回す奴で、気合いで向かっていきます。  艦載機乗りによくいるタイプです。  武器商人から聴いた話では、PMCから派遣されたとか。  そして夜襲を1機で撃退したとか ───」  カムスの眼が鋭く光った。  できたばかりのガレージには、弾薬の木箱が積み上げられている。  その一つにもたれかかって、煙草に火をつけた。 「ロドリゴ、お前のところの情報では、あのホワイトがいるらしいな」 「エンタープライズの撃墜王、ケイ・ホワイトがいちゃあ、命がいくつあっても足りないね」  細く煙を吐き出すと、窓の外に眼をやった。 「3000時間以上乗ったパイロットがあと2人欲しいな ───  今の戦力ではせいぜい互角だ。  アル・サドン攻略は戦局を大きく左右するミッションになるだろう」  基地の中は、真新しい廊下が管制塔を取り囲んでいる。  その内側に兵士の個室が並べて設えてある。  アル・サドン基地を小振りにしたような作りである。  朝から廊下をランニングする2人がいた。 「もう、いつでも出撃できるけどいつ命令があるのかな」  20代前半の若い男が、同い年くらいの女に言った。 「キンバリー、今度ばかりは年貢の納め時だよ。  荷物の送り先は書いてきたかい」  ふんと鼻を鳴らして返す。 「外人部隊に入隊したんだから、今日死ぬ覚悟はできてるさ。  敵さんは、そんなにヤバいのかい」  ジェナーは長い髪を結び直しながら走っていた。 「そうさね。  選りすぐりの戦争屋の中でも、エリートが集まっているらしいわ」 「へえ、どんなテクニックを使うのか見てみたいな」 「戦争はスポーツじゃないんだ。  戦闘機をうまく操縦できる奴が生き残るとは限らないよ」 「船乗りを冥府に送るセイレーンの異名を持つ、ジェナーの強さの秘密は何だい」  一つ大きく息を吐いて、ジェナーは厳しい顔を見せた。 「いいかい。  撃墜王などと天狗になって空の藻屑になったパイロットはたくさんいるよ。  軍人に求められるのは、今日も明日も全力で戦うコンディションを保つ能力だ。  絶対に気を抜くんじゃないよ」
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