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砂漠の月時雨
目の眩むような陽射しの先に、水たまりが見える。
アスファルトの道路でも時折起こる蜃気楼である。
「水 ───
乾いた大地に水を見てしまう」
ポツリと呟くと、ラルフはスパナを取って機体に向かった。
「ガラクは、銃の扱いが上手いそうだな」
ゼツもエンジン周りを調べ始める。
「ああ、レックスの見立てなら間違いないな」
「まさか、あのガラクが ───」
ラルフは手を止めた。
エンジンにしがみつくように、中の砂をほじくり出しているゼツに視線をやった。
「なあ。
ガラクにも人生がある。
俺たちと真逆の平和を求めなくても良いんじゃないか」
「私たちはアドレナリンジャンキーだよ。
戦っていると心が躍る変態さ。
だが、この先に何があるってんだい」
ゼツの手元の部品には、インドネシア製と書かれている。
「兵隊は世界中にいるし、戦争はなくならない ───」
「湿っぽくなったな。
雨でも降るか」
「渇いた砂漠に、潤いが欲しくなってきたのは事実だね」
外で歓声が上がった。
ぽつぽつと硬いものを叩く音がする。
「まさか ───」
2人はスパナを放り出し、ガレージの外へ出た。
「雨だ」
「ついに雨が砂漠を濡らしたかい」
戦いに乾ききった砂漠の大地が、色を濃くしていく。
細い小川を作り、蜥蜴が走り回っている。
「こんなところに、生き物がいたんだねえ」
ゼツの心はパリに飛んでいた。
雨は夜まで続いた。
銀の絨毯は重く、ひとときの水を含んで横たわっていた。
月明りだけが怪しく、辺りを青白く照らすのだった。
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