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砂の月見草
アル・サドン基地の滑走路の先は、一面砂の海である。
明日をも知れぬ兵士たちは用もないのに散歩などしないが、月の明るい夜にラルフとゼツは砂の海を歩いていた。
「で、ガラクもガルーサに入ったんだね。
私たちの娘ってだけで命を狙われる身か ───
わかっちゃいたけど、できればひっそりと身を隠して生きてほしかった」
月以外に、視線を留めるところがない。
下半分は銀の絨毯と化した砂。
上半分は綺羅星のパノラマである。
「もうよそう。
理想を語っても生きていけない。
ガラクも目前の敵を排除して生きていくんだ。
考えようによっちゃ、身を守るには軍隊に入るのが最適じゃないか。
俺は、ガラクが一日でも長く生きてくれればそれでいい。
人生の価値は自分で決めるものだ。
周りから何を言われても、自分自身が納得すればいいんだ」
「人殺しでもかい ───」
ゼツは肩をすくめた。
「おいおい。
暗黒街の死神と恐れられた女と、根っからの軍人の男が今さら」
言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
美しい星空と砂漠の光景が、心を洗う夜もある。
戦争など起こらなければ、人と人が憎み合わなければ汚すことがなかった風景。
「ガラクに会いたいな」
ポツリと呟いて、砂を蹴った。
「うむ。
ガラクにも心配をかけた」
ため息を一つつくと、ラルフが言った。
「お前の戦闘訓練という名目で同乗しているが、戦闘機乗りとして一人立ちするには、正直まだ早い。
まだまだ基本的な離着陸や旋回の精度が不足している。
こいつは何百時間も乗らないと身につかない技術だ」
ゼツはまた肩をすくめた。
「私はお払い箱かい。
うすうす感づいていたけど、超一流のパイロットからすれば、ザコの一人だろうさ。
出直して訓練を受けられるならそうしたいものだな」
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