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片時雨
雲に近づいていくと、煙雨に見舞われた。
コックピットの外は濡れているようだったが、視界はクリアである。
「さすが…… 最新鋭ね。
遠くまでよく見えるし、計器類が目の前にあって見やすいわ」
ここ数か月、上へ下への大騒ぎだった。
無線は入っているので、話せば母につながっている。
わかってはいるが、言葉が出てこなかった。
「えっと…… 何から話したらいいかねえ……
とりあえず、今まで済まなかったね。
一生隠し通すつもりだったが、無理だったね」
右側面の景色が流れる様子を、シートにもたれて眺めていた。
雲がゆっくりと動いていく。
「『とりあえず』じゃないよ ───
私、殺されかけたし、殺したし。
銃を持ってて、レックスにいろいろ教えてもらって、軍隊に入ったのよ。
どうなってるのよ」
頬を涙が伝った。
運命だとわかっている。
母に再会できた安堵感が心を満たしていた。
怒りも悲しみも、ライトニングの咆哮が吹き飛ばしてしまった。
「いざとなれば、何も思いつかないものだね。
親と子というものは、日常そのものだよ」
雲を突き抜け、超音速の安定飛行に入った。
「レックスは、とっても良くしてくれたよ。
私は孫みたいなものだって。
ガルーサの人たちも……
みんな優しいの。
ねえ、少し寝てもいいかな」
ガラクは寝息を立てて落ちていった。
了
この物語はフィクションです
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