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アイデアを出す本
作家にとって一番の苦労は、アイデアを出すことだ。
そのために頭を絞り、歯を食いしばり、全身全霊を込めて集中する。
しかし、アイデアなどそうそう湧くものではない。
現に今、私は苦しんでいる。
ある雑誌から五枚のエッセイを依頼されているのだが、何のアイデアも浮かばないのだ。
締め切りは夕方。ただいま正午。
焦る。いらいらする。うろうろ部屋の中を歩き回る。
「枯渇ーっ!」
大声で叫んでみたりする。しかし、そんなことをやってみたところでアイデア様は降臨してこない。
ふと本棚に目をやる。積ん読の書籍のなか、一冊の背表紙が目にとまった。
〈アイデアを出す本〉
そうだ。たしかそんな本を買ったっけ。今から読んでみよう。薄い本だ。一時間で読み終えられるだろう。それでエッセイが書ければしめたもの。
読書。
読み終えた。
発想法、思考法、さまざまな手法が書かれてあった。
しかしーー。
(あんな本読んでも何のアイデアも浮かばん!)
そう。そうなのだ。まったく、本という奴、いろいろなことが書かれているものの、いざというとき本当に役に立ったことなど一度もない。
もう三時だ。私は焦慮しまくる。もうすぐ編集者が取りに来る。
いかん。いかん。いかん。
と、そのとき!閃光が脳裏を駆けた。
(アイデアを出す本を読んだが、アイデアが出なかった。そのことを書けばいいんだ!)
私は机に向かった。
疾風のように四十分で書き上げた。
ほっとした。
私はサイドテーブル上の〈アイデアを出す本〉を眺めた。
そしてつぶやいた。
「うむ。さすが、アイデアを出す本だ」
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