泣き虫の空から

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「でも、僕が返信をしなかったのも、そうやって文句を言ってるのも、苦笑いしながらちゃんと受け止めてくれてる気がする」 「…うん。優しいお父さんなんだね」 「父さんって、結構泣き虫でさ」  急に何かを思い出したように、笑いを(こら)えながら宮田くんが話しだす。 「映画とかドラマとか、すぐ泣くし」 「そうなんだ」 「だから、僕も…」  声が途切れた。 今の今まで笑っていた瞳から、涙があふれて頬を伝った。 「…ごめ、…っ」  宮田くんがうつ向くと、いくつもの透明な雫が落ちていく。 こみ上げる声を必死に殺し、肩を震わせる彼から、私は目が離せなかった。こんなにも静かで美しい慟哭(どうこく)があるなんて、思いもよらなかった。 私の瞳に映る彼も(にじ)んで、輪郭がぼやけていった。 しばらくして涙を(ぬぐ)い、宮田くんがまた口を開いた。 「ごめんね。もう、大丈夫」 「…うん」 「椎名。このことさ…」 「わかってる。ここだけの秘密だね」 お互いに潤んだ瞳を見合わせて、私たちは微笑んだ。 「…あの」 それが適切な言葉だったかどうかは、わからない。 でも、伝えたかった。 「明日も来ていいかな…?」 「えっ」 宮田くんが驚きの声を上げて、私は頬が熱くなるのを感じた。 「私もミミのこと、話せてよかった。もう少し聞いて欲しいし、宮田くんの話も聞きたい。もちろん、無理にとは言わないけど…」 私は今日 ここに来られてよかった 私の気持ちを宮田くんに伝えることが出来て、彼の気持ちを聞くことが出来た。あの時ほんの少しの勇気を出さずにいたら、ふたりの傷は癒えなかったかもしれない。 「…うん。ありがとう」 宮田くんが笑顔で答えてくれた。 その眼差しは、初めのものよりもずっと優しかった。悲しみのエアポケットにうまく入り込んだ、ひだまりのように温かかった。 雨が強くなった。 今日の分の涙はもうおしまい。 あとは空に任せよう。 もっと降ってくれたら、明日は笑顔になれるかな。 ふたりともね。
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