第12話

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警察署に行く。 事件現場にいたのは私だけ。 沢山同じことを言われた。 「覚えてることを話してほしい」 「どんな些細なことでもいいんだ」 「もう一度よく思い出して」 「辛いだろうけど、解決するために」 「お母さんのために」 「他に思い出したことはない」 何度も何度も何度も、同じことを言われた。 何度も同じ話をする。 何度も同じ写真を見せる。 何度も……。 それなのに、今になっても母の事件は解決しない。 私が父の事件に関わって、その犯人が母の事件に関することを少しでも知っていればいい。 そう思う。 目が覚める。 時計を見れば昼の12時だった。 あれから寝ていたのだろう。 リビングへ向かう。 机の上にメモがあった。 『仕事に行ってきます。最近は無理させたからゆっくり休んで。ほしいものがあれば買ってくるから電話してね』 そのメモを読んでラップをかけられたご飯を温める。 すると、インターホンがなる。 私があの日から怖いのはこの部屋でも、クローゼットでもなくて、インターホンが鳴る事。 あの日を思い出してしまうから。 恐る恐る玄関へ向かう。 鍵をこじ開けてる音は聞こえない。 「那結菜、いる?」 声が舞香だ。 ドアを開ける。 「舞香……」 「那結菜!」 そう言って飛びついてくる。 舞香は私がインターホンを恐れていることを知っているからインターホンを押したあと声を掛けてくれる。 「どうしたの……?舞香」 「那結菜が体調崩したって聞いたからプリント届けに来たの」 そう言われ思いだす。 今日は先生達の職員会があるから午前授業だったのだ。 「ありがと」 そう言いリビングへ行く。 「舞香、お昼食べる?」 私だけだべるのも申し訳ない。 「頂こうかな」 舞香は変に気を使わない。 逆にありがたい事だ。 「パン?」 そう聞くと、うん、と答えた。 舞香はお米よりもパン派だ。 パンを焼いて、ジャムとマーガリンを差し出す。 2人で座ってお昼を食べる。 「ねぇ、那結菜……」 舞香の方に顔を上げる。 「最近は、ごめん。周りが見えてなかった……」 「私こそごめん、だよ」 喧嘩をしても結局は直ぐに仲直りしてしまう。 それから色んな話をした。 気がつくと、午後2時になっていた。 舞香はこの後習い事だ。 大変だな、とは思うけれど舞香が望んでやっていることらしい。 それから少しして、ドアが開いた。 「ただいまー」 お父さんだ。 「おかえりー」 「体調は大丈夫か?」 「うん」 私は母の事件を知りたい。 だから、父の事件に関わる。 これまでも。 これからも。
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