第12話

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――3年前―― 「お母さん!ただいまー」 そう言っていつものように家に帰った。 玄関の扉を開け、廊下にそう言う。 「おかえりー」 と返事が返ってくる。 お母さんだ。 いつものようにリビングでおやつを食べる。 その日のおやつはドーナツだった。 お母さんと話しながらおやつを食べていると、インターホンが鳴った。 お母さんは誰かしら、と言いながら玄関に向かった。 ドアが開く音がして直ぐにドアが勢いよく閉まった。 それと同時に鍵の掛かる音が聞こえた。 お母さんが走ってくる。 「那結菜、このクローゼットに隠れて!絶対に出てきたらいけないよ!お母さんのスマホからお父さんにメッセージを送ってほしいの。お願い出来る?」 何も分からない私は分かった、と言ってしまった。 お母さんが私をクローゼットに入れ、扉を閉じる。 家のクローゼットには、外からは見えない隙間がある。 そこから私は覗いた。 お父さんへのメッセージ画面を開いたままにして。 お母さんが机の上にあったドーナツを片付ける。 それが終わるのと同時に玄関の方から大きな音がした。 リビングに黒のパーカーを着た知らない男の人が入ってきた。 私は慌ててお父さんへのメッセージにこう書いた。 『お父さん!家に知らない人が来てお母さんが危ない!』 私は感覚的にお母さんが危険だと思った。 私をクローゼットに隠すほど。 それからそのまま最悪の光景を見た。 「お母さん!」 そう叫びそうになった。 けれど、声を出せば見つかる。 そう思い耐えた。 「お母さん」という数文字を飲み込んだ。 すると、黒いパーカーを着た男の人は倒れているお母さんの前から立ち上がった。 私はカメラを起動させた。 クローゼットの隙間から黒いパーカーの方を写真に収めた。 メッセージ画面を開くとお父さんからメッセージが来ていた。 『今どこにいる?』 「家にいる」 と返す。 『今から向かう』 と返ってくる。 立ち上がった黒いパーカーの人は玄関の方へ向かう。 ドアが開いて閉まる音がする。 出ていったのだろうか。 お母さんは変わらず倒れたまま。 お母さんの周りを赤い液体が流れている。 それなのに、私はクローゼットの中から出られなかった。 それから数分。 パトカーの音が聞こえる。 (パトカー?) そう思えばドアが勢いよく開いた。 「那結菜!」 お父さんは家に入るなりお母さんを見つけた。 「鈴菜(すずな)!」 お母さんの名前を呼ぶ。 お父さんに続けて入ってきた沢山の人達。 「那結菜!もう大丈夫だから、居たら出てきて!」 そう言われる。 けれど、クローゼットは中からは開けられない。 メッセージに書く。 『クローゼットの中にいる』 すると、お父さんが近づいてきてクローゼットを開ける。 「お父さん!」 お父さんは強く抱き締めてくれた。 私は不安が安心に変わり泣いてしまった
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