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――3年前――
「お母さん!ただいまー」
そう言っていつものように家に帰った。
玄関の扉を開け、廊下にそう言う。
「おかえりー」
と返事が返ってくる。
お母さんだ。
いつものようにリビングでおやつを食べる。
その日のおやつはドーナツだった。
お母さんと話しながらおやつを食べていると、インターホンが鳴った。
お母さんは誰かしら、と言いながら玄関に向かった。
ドアが開く音がして直ぐにドアが勢いよく閉まった。
それと同時に鍵の掛かる音が聞こえた。
お母さんが走ってくる。
「那結菜、このクローゼットに隠れて!絶対に出てきたらいけないよ!お母さんのスマホからお父さんにメッセージを送ってほしいの。お願い出来る?」
何も分からない私は分かった、と言ってしまった。
お母さんが私をクローゼットに入れ、扉を閉じる。
家のクローゼットには、外からは見えない隙間がある。
そこから私は覗いた。
お父さんへのメッセージ画面を開いたままにして。
お母さんが机の上にあったドーナツを片付ける。
それが終わるのと同時に玄関の方から大きな音がした。
リビングに黒のパーカーを着た知らない男の人が入ってきた。
私は慌ててお父さんへのメッセージにこう書いた。
『お父さん!家に知らない人が来てお母さんが危ない!』
私は感覚的にお母さんが危険だと思った。
私をクローゼットに隠すほど。
それからそのまま最悪の光景を見た。
「お母さん!」
そう叫びそうになった。
けれど、声を出せば見つかる。
そう思い耐えた。
「お母さん」という数文字を飲み込んだ。
すると、黒いパーカーを着た男の人は倒れているお母さんの前から立ち上がった。
私はカメラを起動させた。
クローゼットの隙間から黒いパーカーの方を写真に収めた。
メッセージ画面を開くとお父さんからメッセージが来ていた。
『今どこにいる?』
「家にいる」
と返す。
『今から向かう』
と返ってくる。
立ち上がった黒いパーカーの人は玄関の方へ向かう。
ドアが開いて閉まる音がする。
出ていったのだろうか。
お母さんは変わらず倒れたまま。
お母さんの周りを赤い液体が流れている。
それなのに、私はクローゼットの中から出られなかった。
それから数分。
パトカーの音が聞こえる。
(パトカー?)
そう思えばドアが勢いよく開いた。
「那結菜!」
お父さんは家に入るなりお母さんを見つけた。
「鈴菜!」
お母さんの名前を呼ぶ。
お父さんに続けて入ってきた沢山の人達。
「那結菜!もう大丈夫だから、居たら出てきて!」
そう言われる。
けれど、クローゼットは中からは開けられない。
メッセージに書く。
『クローゼットの中にいる』
すると、お父さんが近づいてきてクローゼットを開ける。
「お父さん!」
お父さんは強く抱き締めてくれた。
私は不安が安心に変わり泣いてしまった
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