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この事件の謎を解くためにはきっと、その人の心を知らなければいけない。
けれど、心なんて分かるはずがないんだ。
1人1人心の感じ方は違って、その人の考え方も、何もかもが違う。
そんなことを考えていると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
音が止まったと思うのと同時に名前を呼ばれた。
「那結菜ちゃん!」
真田さんだ。
「どうかしたんですか?」
「那結菜ちゃんがお父さんに頼んでいた件について分かったよ」
お父さんに頼んでいた件とはあれのことだろう。
「松田さんと棚田さんのことについて、何か分かったんですか?」
「ああ、2人の働いていた時期が重なっていた時、一緒に働いていた人たちを当たって聞き込みをしたんだ。そしたら、凄いことが分かったよ!」
「凄いこと、ですか?」
凄いこととは一体なんだろう。
「凄いことさ、まず、松田さんが働き出した時、指導係に着いていたのが棚田さんだったらしい。それで、プライベートでも会うようになったそうだ。その結果として、交際を始めたらしい。」
ここまでの話はよくありそうな話だ。
「真田さん」
「なんだい?」
「2人がその時点で交際を始めたとします、けれど、交際を始めて1年も経たずに棚田さんはそのコンビニをやめています。」
「そう、だな」
「その後2人は交際を続けたんですか?」
「いや、棚田さんが辞めてから数ヶ月で交際は終わったらしい。」
疑問が生まれる。
「交際が終わった時期について、もう少し詳しく調べて欲しいです。」
「わかった」
少し間を置いて聞いた。
「真田さんは、大切な人のために嘘を付けますか?」
少し困惑した表情を浮かべる。
「そうだな...相手が大切な人であるのならば、嘘をつくかもしれないな」
お父さんもそんなことを言っていた。
人はそういう生き物なのだろうか?
そう考えていると、隣から呼ばれる。
「那結菜ちゃんは、どうなの?」
「私、ですか?」
聞き返されると困ってしまう。
「...私は、真田さんとかお父さんとかみたいに大切だと思える人とかいないけど...舞香のためになることなら、嘘をついてでも守りたいって、思う...かな」
真田さんは微笑みながら答えた。
「那結菜ちゃん、その気持ちが今の那結菜ちゃんにとっての《大切な人》なんだよ」
それは知らなかった。
この気持ちは大切な人とは違う別の何かだと思っていた。
すると、隣の部屋から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
隣の部屋はお父さんと真田さんの所属する部署があるところだ。
「お前はふざけるのか!?」
少し低い声での怒鳴り声だった。
真田さんに目線を送ってしまった。
「ごめんね、多分部長が怒ってるんだと思う」
「部長さんって、怒らないといけないことでもあるの?」
「ん〜、部長は部署の中でも偉い人だからなぁ」
「そっか、偉い人だもんね」
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