椎名くんは願わない

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「そういえば、この傘どうしたの?」 「ああ、玄関の傘立てにあったやつパクった」 「悪いやつだな」 「緊急事態だったからな。仕方ない。後で返す。なんなら、家にあるやつ10本返す」 「椎名くん、それ捨てたいだけだろ」  緊急事態って。そんなに焦って追いかけてきたってこと?  椎名くんも可愛いとこあるな。  ヘラヘラ笑っていたその時、私は傘の柄の部分に何か書かれているのを見つけた。 「ここ、名前書いてあるよ。ほら……沢田空、レベル17って」 「えっ、沢田⁉︎」  沢田くんは私たちのクラスメイトだ。なんのレベルかは分からないけど、レベル上げしていたなら可哀想なことをしてしまったな。 「早く家に帰って傘返しに行こう」 「そうだね」  ちょっとスピードを上げる椎名くんに、私は歩幅を合わせてついていく。  ごめんね、沢田くん。  ほんの少し、まだ少し、雨よ降れって願ってしまった。  椎名くんはそんなこと願わない? 「……ところでさ、藤川って水族館好きなの? だったら今度俺と行く?」 「えっ? 行く!」 「即答かよ」  嬉しそうに椎名くんが笑った。  やっぱり椎名くんといると楽しい。  雨が降っていても、何をしていても。  
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