椎名くんは願わない

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 ドキッとした。言われ慣れてないから、すぐ動揺しちゃう。 「冗談でしょ?」 「マジっぽかったけど、森島だからなー」 「うんうん、森島くんだもんね。誰にでも言いそう」  私は下敷きを取り出して顔を仰いだ。なんか蒸し暑い。  椎名くんはそんな私を半分開いた目で見ている。 「嬉しそうだな、藤川」 「ん? そんなことないよ? どうせそんなの本気じゃないし」 「それは分かんないだろ」    変に空気が重たくなる。梅雨ってやだな。空気がベタベタして。 「それで、椎名くんはなんて答えたの……?」 「え?」 「私が可愛いって言われて、椎名くんはどう思ったの?」 「別に。なんとも思わなかったけど」  思わないのかよ。同意するとか、反発するとか、なんかすればいいのに。 「だって俺、藤川が可愛いなんて思ったことないし」  椎名くんはつまらなそうにそう言った。  うわ。  今のはちょっと痛いな。  ちょっとというか、だいぶ痛いかも。  笑って流せない。 「私、帰る」  下敷きをしまって、鞄をかついで、立ち上がった。   「まだ雨降ってるぞ?」 「いい。びしょ濡れになってもいいから帰る。椎名くんと一緒にいたくないから」 「何怒ってんだよ、藤川」  気づいてないのか。この鈍感! 「うっせ、死ね!」  私は椎名くんの椅子を思い切り蹴った。椎名くんはその反動で椅子から転げ落ちた。 「痛ってえなあ、そういうとこだぞ、藤川!」 「ふん!」  何がそういうとこだ。嘘でも可愛いって言えばいいのに!  これは椎名くんが悪い。
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