椎名くんは願わない

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「藤川さんって……好きなやついるの?」  からかうように森島くんが言った。 「いない!」  私は即答した。  好きじゃないもん、椎名くんなんか。  変なことしか言わないし、カバンの中にう○このビニール人形持ってたし、急に超能力を鍛えようとするし、人にドッキリ仕掛けて落とし穴に落とすし、お正月すぎて五日も笑わなかったような変人だ。しかもお兄さんは力士で、お父さんはヒューマンビートボクサー(自称)だし。    だけど、幼い子供には優しいところもあるんだよなあ。  木に引っかかった風船を取ろうとしてあげたり、逃げた蝶を捕まえようとしてあげたり、たまにいいところもあるんだよ。めったにないけど。  一緒にいると楽しいし、むちゃくちゃ気が合うよ。  椎名くん以外の人とじゃ思い切り笑えない。  だけど椎名くんは私のことをずっと友達だとしか思ってないから。   「じゃあさ、今度俺とデートでもしない? 水族館とかどうかな」  森島くんが何か言ってる。  水族館?  前後の話をちょっと聞き逃して、単語だけ聞いてた。  曖昧に笑って、適当に「そうだね」なんて相槌を打ってみると、森島くんは嬉しそうにスマホを取り出した。 「じゃあ、連絡先の交換を──」  その時だった。 「危ねえ、森島っ!」
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