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後ろからドーン! と誰かに突き飛ばされ、森島くんが吹っ飛んだ。彼は運悪く、泥の水たまりに顔面から突っ込む。
「大丈夫か森島! 生きてるか⁉︎」
そう言って心配しているのは椎名くんだ。いつの間にかビニール傘を手にしている。
「何すんだよ、椎名!」
前面泥水まみれの無惨な姿になった森島くんが怒りを込めて振り向く。
「ごめんごめん。さっき、お前にだけ雷が落ちそうだったから」
「雷がそんなピンポイントで落ちるか!」
「大変だ、すげえ泥ついてるからこれで顔を拭けよ。うちの兄貴が相撲部屋で使ってるまわしの切れ端」
「いらねえよ! まわしって全然洗わないらしいじゃねえか!」
「マジで? じゃあお詫びに今晩お前んちの前でうちの親父にボイパの生ライブ二時間開かせるわ」
「マジでやめて!」
森島くんはやってらんねえと吐き捨てて逃げるように去ってしまった。
やっぱり常人では椎名くんの理不尽なボケにはついていけないようだ。
森島くんが不憫でならない。
「もう、何やってんの? 椎名くん! 森島くんに悪いじゃん!」
「藤川こそ、何やってんだよ」
椎名くんが不機嫌そうに口をへの字に曲げる。
「森島なんかに誘われてヘラヘラしやがって。あいつ、A組の佐藤杏里と付き合ってるんだぞ」
「えっ?」
「二股かけられそうになったの、助けてやって何が悪い」
椎名くんはツンと横を向きながら、私を自分のビニール傘の中に引き入れた。
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