椎名くんは願わない

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「藤川って、ほんと男を見る目がないよな」 「そんなことないもん」 「森島の下心に気づかなかったくせに。どこまで鈍いんだよ」  歩き出した相合傘の下で椎名くんはずっと私に文句を垂れている。  あんまり言うから、私もつい言い返しちゃう。 「はいはい、鈍くてごめんなさいね!」 「可愛くねえわマジで」  それは私もそう思う。  助けてもらった上に、家まで送ってもらっているんだから、もう少し素直になってやるか。   「椎名くん」 「ん?」 「ありがと」  雨に消えそうな声で呟いてチラッと横目で見たら、椎名くんは頬の筋肉をピクピクさせて複雑な表情を浮かべていた。 「どうした椎名くん」 「何でもない」 「もしかして、今私のこと可愛いと思った?」 「………………いや」  すごい間があったけど。  素直じゃないな。  とりあえず追及しないでおく。返事を聞いたら、こっちが照れちゃいそうだから。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加