28人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、この傘どうしたの?」
「ああ、玄関の傘立てにあったやつパクった」
「悪いやつだな」
「緊急事態だったからな。仕方ない。後で返す。なんなら、家にあるやつ10本返す」
「椎名くん、それ捨てたいだけだろ」
緊急事態って。そんなに焦って追いかけてきたってこと?
椎名くんも可愛いとこあるな。
ヘラヘラ笑っていたその時、私は傘の柄の部分に何か書かれているのを見つけた。
「ここ、名前書いてあるよ。ほら……沢田空、レベル17って」
「えっ、沢田⁉︎」
沢田くんは私たちのクラスメイトだ。なんのレベルかは分からないけど、レベル上げしていたなら可哀想なことをしてしまったな。
「早く家に帰って傘返しに行こう」
「そうだね」
ちょっとスピードを上げる椎名くんに、私は歩幅を合わせてついていく。
ごめんね、沢田くん。
ほんの少し、まだ少し、雨よ降れって願ってしまった。
椎名くんはそんなこと願わない?
「……ところでさ、藤川って水族館好きなの? だったら今度俺と行く?」
「えっ? 行く!」
「即答かよ」
嬉しそうに椎名くんが笑った。
やっぱり椎名くんといると楽しい。
雨が降っていても、何をしていても。
最初のコメントを投稿しよう!