椎名くんは願わない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。  彼の視線の先にはザアザア降りの雨。  午後から降るって、そういえば天気予報で言ってたな。  すっかり忘れていたけど。   「藤川、傘持ってきた?」 「ううん。忘れた」 「何やってんだよ藤川。梅雨入りしたんだから、毎日用意しないとダメだろ」 「じゃあ椎名くんは傘持ってるんだ?」 「持ってるわけないだろ」  理不尽だな。  でもそれが椎名くんだ。  彼はいつも真面目な顔をして変なことを言う。 「しょうがないからコンビニでビニール傘を買うしかないな」 「えー。私それでもう5本くらい無駄に買ってるんだよね。これ以上買ったら親に怒られる。椎名くん買ってよ」 「俺だってもう10本買ってる」 「計画性ないな」 「お互い様だろ」  私たちは似ている。不本意だけど。 「もう少し雨宿りするか……」  放課後の教室に好き好んで残っている人なんていない。  二人きりになっちゃうな。  まあいいか。  椎名くんとだったら下らないことをいくらしゃべっていても飽きない。   「そういえば、今日A組と体育の授業合同だったじゃん。その時、森島が変なこと言ってたんだけど」 「森島くんって、あのイケメンで超有名な?」  学校一のモテ男、かな。コミュ力高めで女の子には誰でも愛想振りまくみたいな人。  私たちとは一度も同じクラスになったことがないから、関わりは薄い。 「その森島くんが、どうかした?」 「藤川のこと可愛いって」
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