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何度も首を左右に振り、横顔を鏡に映し、そばかすの鼻を気にしていたかと思ったら、淡い水色の光の中、長い睫毛を伏せた娘は、夢見がちな妖精のような眼差しで物憂げだ。はぁと小さな溜息を吐き、コケティッシュ。
雑誌をラックに戻した花は、ふと呟いた。飾られている猫の置物に気づき、ぽつんと。ヘーゼルの瞳が映したのは可愛い黒猫の翼。
「……猫の天使?」「それは多分、キメラ」
とぼけた娘の声に、敏感に反応したのは、俺ではなく、鏡越しに目が合った野球少年。ほっぺがピンクで、丸眼鏡の似合う蓮君だ。
今、施術中だから眼鏡はかけていないし、はにかむように微笑む瞳は俺を映してから、ぼんやりとした眼差しで、花を追いかけた。
「何それ?」「キメラ動物さ。知らない?」
「知らない」「猫にね、天使の羽根がある」
裸眼なのに、どうして知っているのやら。その真っ黒な猫に真っ白な翼があることを。何度か、店を訪れるうちに気づいたのかな。
窓台に飾っている猫の置物は思い出の品。元は俺のものだったけれど、今となっては。
「嫁さんのお気に入りさ。可愛いだろう?」
「ママの? ほんと? 全然知らなかった」
「ほんと。三年目の記念日で贈ったんだよ」
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