Un, deux, trois♤Papa

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「じゃあ、これからは家も外もなくなるわ」  焦燥を抱き、駆け引きに逡巡(しゅんじゅん)していたら、勿体振(もったいぶ)る彼女の口説(くど)き文句に予感を覚える。静かに迫り来る大波の気配に俺は身構えた。実は愛もシャイガールだが、言う時は言う。ふと懐かしいような愛の言葉が飛び込んだ。 「あたしがいるところに、お前もいるのよ」  何年()っても、嗚呼(ああ)、どうして、この(ひと)は俺の欲しい言葉を超えて来るんだろう――。もう想像以上に、いい女なんだ。ぞっこん。 「そうでしょう……?」「ああ、そうだな」 「私たちのあの子やあの子の好きな子もね」  二人して微笑み、部屋の灯りを消した後、足元を照らす階段を一段一段、登っていき、愛の手を引いて、俺は寝室のドアを開けた。 「俺たちの居場所は俺たち次第」「うん!」  扉の閉まる音から鍵の閉まる音が重なる。俺たちは暗闇で光る瞳の中の自分を見つめ、抱き合い、睫毛まで震わせ、口付け合った。きっと今夜は、しっとりと愛し合うだろう。  鮮明に(まぶた)(よみがえ)る若々しい日々が過ぎても、華のある人生を羽撃(はばた)いて。明日も明後日も。愛する人のいる幸せに怖くとも手を伸ばし、深紅の花を贈るのだ。胸の炎を絶やさずに。
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