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「じゃあ、これからは家も外もなくなるわ」
焦燥を抱き、駆け引きに逡巡していたら、勿体振る彼女の口説き文句に予感を覚える。静かに迫り来る大波の気配に俺は身構えた。実は愛もシャイガールだが、言う時は言う。ふと懐かしいような愛の言葉が飛び込んだ。
「あたしがいるところに、お前もいるのよ」
何年経っても、嗚呼、どうして、この女は俺の欲しい言葉を超えて来るんだろう――。もう想像以上に、いい女なんだ。ぞっこん。
「そうでしょう……?」「ああ、そうだな」
「私たちのあの子やあの子の好きな子もね」
二人して微笑み、部屋の灯りを消した後、足元を照らす階段を一段一段、登っていき、愛の手を引いて、俺は寝室のドアを開けた。
「俺たちの居場所は俺たち次第」「うん!」
扉の閉まる音から鍵の閉まる音が重なる。俺たちは暗闇で光る瞳の中の自分を見つめ、抱き合い、睫毛まで震わせ、口付け合った。きっと今夜は、しっとりと愛し合うだろう。
鮮明に瞼に蘇る若々しい日々が過ぎても、華のある人生を羽撃いて。明日も明後日も。愛する人のいる幸せに怖くとも手を伸ばし、深紅の花を贈るのだ。胸の炎を絶やさずに。
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