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「ファンシーだろう? 羽根があるからな」
「はい、翼猫。US製かな。珍しいですね」
蓮君とは、もう家族みたいなものである。ご近所に住んでいて、娘と小中と同じ学校。花とは幼馴染みだ。もう他人の気がしない。常連さんで、坊主から伸びた髪をカット中。この年頃にしては施術中も落ち着いていて、中々、聡明な瞳をした物静かな少年である。
「よく知っているね。名前があるのかい?」
俺も、翼の生えた猫に名前があるなんて、知らなかったから目を丸くして少年と話す。横髪を切る時、擽ったそうに片目を閉じて、肩を震わせた。可愛い仕草のシャイボーイ。
「ごめんね、驚かせたよね」「大丈夫です」
鼻歌交じりにくるくる回って踊りながら、ベンジャミンの葉の陰に入った花のことを、鏡越しに追いかけながら蓮は朗らかに宣う。
「自分でも欲しくなって、お年玉で買った」
『翼猫』の出て来るシリーズ本を見つけ、図書館で読んだことがあると得意げにする。澄んだ瞳の少年は読書家なのかも知れない。愉快げにファンシーな話をするから驚いた。あらすじを聞いて、俺も読んでみたくなる。
「翼猫? 見たことも聞いたこともない!」
大袈裟におどけたような揶揄い声がする。そこまで悪気はないが、花は遠慮のない子。バーンと両手を広げ、肩を竦めて笑い出す。
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